コロブチカ旗揚げ公演。
コロブチカとはコロという「柿喰う客」とうい劇団に立ち上げから参加している俳優が、
自分たちがやりたいものをやるという志で始まったもの。
コロってどんな名前や?と最初は思った。犬じゃないんだから。
子供の頃、コロという名前がつけられた犬はわりと一般的だったんじゃないかと思う。
多分、子犬のときにころころと太った体型から
みんな、コロと名付けたんだろう。
大人になってもチビと呼ばれる犬はどうなんだろう?
俳優のコロはあまりコロコロしていない。
いや、とても魅力的である。
そのコロが第一回目の公演として選んだ戯曲が、
デイビッド・オーバーンの「Proof」。
ある数学者の家族の物語である。
今年、頭にフィールズ賞を受賞したのだが
その受け取りを拒否し姿を消したロシアの数学者のドキュメンタリーを見た。
その数学者グレゴリー・ペレルマンはポアンカレ予想を
証明してみせたそうである。2006年の頃のこと。
この戯曲自体は2001年にピューリッアー賞やトニー賞を受賞している。
その後、「プルーフ・オブ・マイ・ライフ」という映画になる。
数学や科学をテーマにしたものは以外に多いことに気付く。
小川洋子の「博士の愛した数式」、映画では「ビューティフル・マインド」「π(パイ)」など。
理論物理学をテーマにした「コペンハーゲン」という戯曲も印象に残っているものがある。
海外ではこのように科学をテーマにした舞台が
受け入れられる素地があるのだろうか?
それは国民の民度の高さから来るものなんだろうか?
日常生活に科学が普通に寄り添っている
という状態は素敵なことである。
この「プルーフ・証明」という戯曲を最初に日本で上演したのが、
ひょうご舞台芸術だったそうである。
彼らのプロデュース、新しいものの発掘力の高さを感じる。
ひょうごが取り上げた後にトニー賞などを受賞した。
その時の姉妹役は秋山奈津子と寺島しのぶだった。
さて本作はどうだったのだろうか?
これを見に行こうとするきっかけとなったのが演出の黒沢世莉さんからのメールだった。
「いままでのキャリアの中でも最高のものが出来ました。」
時間を作って、王子に向かう。そして見た。驚いた。
キャサリン役のコロがどんどんと変わっていく。
キャラクターの変化によってその魅力もどんどんと変化する。
ものすごく可愛い女の子に見えるときと
邪悪なココロをもった繊細な女性のときと。
短時間でどんどんと切り替わるのである。
有名なキスシーンもいい。
王子小劇場の濃密な空間でのキスシーンはなかなかに身体的である。
そして、その後の、キャサリンとハルの関係の変化を見ているだけでドキドキする。
科学モノの戯曲のいいところは、
さらに知的好奇心を刺激することが満載であるということである。
証明を誰がしたのか、
天才とキチガイが紙一重であり、その曖昧な境界線に人は生きており、
決して同じところにはとどまらない。
そのあいまいな関係が見ている人をある緊張感に誘う。
それらの按配が本当に上手く出来ており、
間の10分間の休憩も含めて演出・計算された
舞台の見せ方を随所に感じる事ができた。
来て良かった、と思って王子の町を後にした。