弊社の社長が昔からの唐組ファンで、今回の公演のチケットは社長から頂いた。
いつもの花園神社である。
日没がずいぶんと遅くなってきており、まだ薄明るい境内に集まる。
整理番号をもらい、いつものように番号順に整列する。
面白いのが往年の唐ファンである60歳代の観客と同時に20代のお客さんが多いこと。
この幅広い観客層がいつも集まってくるのが唐組の魅力である。
20歳代の少年少女たちはアングラという演劇を
怖いもの見たさで見ているような気がした。
彼らの会話から、アングラは、
見世物小屋的なイメージをもっているのではないかということを感じた。
テント内は満員。
ビニールシート1枚だけが敷かれた小屋は地面の温度を直に感じ、
空気が通り抜けるとさわやかな風を感じる。風がないと熱気であふれかえる。
テントの後方が開くと夜風がテント内に流れ込み、
と同時に新宿の自動車などの喧騒が遠くに聞こえてくる。
この独特な雰囲気の中で唐組の公演は行われる。
今回は黒手帳を巡る物語。様々なキーワードが出てくる。
黒手帳は炭鉱労働者の労働者の証。
失業手当などをもらうのに必要な手帳。
その炭鉱の街で様々な人が絡み合う。
ひっそりと1枚500円で似顔絵を描き続ける男。
おしるこ屋の女。屋号は「デカダン」。
退廃の意味の奥には、でっかい団子が載せられたお汁粉が供される。
言葉遊びと、イメージの連関が唐組の真骨頂である。
唐十郎がおいしい役で登場する。金粉ダンサーの田口の役。
劇場の看板描きをしていたら、自らをキャンバスにして金粉を塗りたくっていたという。
それが評判を呼び金粉ダンサーになっていった。今も足に金粉が残っている。
山口県の炭鉱の写真で女炭鉱婦たちが全裸で真っ黒になって
坑道で働いていた写真を見たという台詞があり、とても印象的だった。
僕もそのような炭鉱で働く女性の写真を見たことがあり
上半身裸で真っ黒になりながら働いている女性がいる事実に驚愕した。
その記憶と黒手帳が赤松由美のブラジャーに挟まれ
乳房の間で育てられていくというイメージとつながっていく。
言葉と情景のイメージの連関を俳優とともに楽しめると
唐組の芝居は俄然面白くなる。
大鶴美仁音の少年の役は相変わらずのはまり役で
ノスタルジーを感じる発話の仕方も含めて魅力がある。
通して見ていて、唐組の最大の特徴はデジタルな要素を一切排した舞台づくりである、ということ。
この時代、アナログに徹底的にこだわった造りは貴重であり、
そのことが身体感覚を呼び覚まし、見ているものと一体になっていく。
丸太と万線で作られたテント小屋。タングステンライトの照明。
外ではジェネレーターがたかれ、音楽や効果音はオープンリールから出される。
きっかけの際に、オープンリールのスイッチをカシャンとひねる音がして、
直後に音楽が流れる。
俳優が掛け持ちで、客入れから、音声から、照明をやっている。
そのアナログ感覚を全面に受け止められる芝居は貴重な体験になるだろう。