先日、朝日新聞で読んだ記事が印象的だった。
米国に住み独特な生活スタイルをしているアーミッシュの話。
ある男がアーミッシュの村でアーミッシュの家族を惨殺し、自らも命を絶った。
被害者であるアーミッシュの遺族は、加害者の男性の家族に面会に行く。
そこで彼らは、今回の事件であなたたちを恨み報復するようなことはしない。
このことを私たちは「赦します」と伝えた、と。
報復の連鎖を断ち切る最善の方法の一つだろう。
しかし、それがはたして実際に行えるのか?
感状が理性を超えてしまうのではないだろうか?
その記事のことを、この舞台を見て考えた。
今回の舞台は、三鷹で上演された
「不確かな怪物」(2007年@三鷹市芸術文化ホール)を想起させる一大長編ドラマ。
場所はとある地方の民宿。海が近くにあるという以外はどこか良くわからない。
そこの家族と民宿に集う人々の物語が様々に交錯する。
その複雑な関係を喜安浩平は本当にうまくまとめている。
物語の冒頭で、ものすごく巨大な生物が東京湾から木更津に上陸。
そのまま湾岸を通過し、浦安、お台場、そして六本木などを壊滅状態にし、
羽田を通って横浜あたりから海中に消えていった。
東京を中心とする首都圏は壊滅する。
首都圏は入場が規制され、
まるで阪神大震災の時を想起させる。
一瞬で怪物はいなくなった。
それは瞬間的な地震のイメージにもつながっていく。
都市部では暴行や略奪が発生し、それに危機を感じた人々は
とりあえず首都圏を脱出したりしている。
また、逆に、壊滅状態の街で何かお手伝いが出来ることはないかと
ヴォランティア志望の若者たちが首都圏の周辺で足止めをくっている。
そんな状況の中、地方の民宿「海と山」は淡々として営業が続けられている。
喜安の原風景がこうした海辺の田舎町にあるのだろうか?
折り込みの喜安の書いていたものを読んで何となくそのようなことを感じた。
民宿は連れ子で再婚した母(永井幸子)と長男(竹井亮介)が切り盛りしている。
長男の妻(川上友里)は妊娠しており臨月を迎えている。
長女はここで同居しており、次男は東京からわけあって戻ってくる。
長男のおばあさんが寝たきりで離れにおり介護を受けながら暮らしている。
何かあれば祖母はブザーを押す。
首都圏に住んでいる義理の姉(深澤千有紀)は老い先の短くなった祖母を、
夫と一緒に見舞いにくる。
義理の姉は後妻だった永井幸子のことを良く思っておらず、
祖母の介護について不平不満を言い、当たり散らす。
その夫は、それらのことをすべてわかっており理解を示すのだが、
その際に嫁の手をにぎったりする。エロ老人となっている。
人間くさい人たちばかりが出てきておりリアル。
そこに東京からやってきたカップルがいたり、
ヴォランティアを目指してやってきた若者がここで足止めをくっており
長期滞在をしている。
物語は東京が壊滅した後の数日間のお話。
家族や男女の関係が様々な状態で見えてくる。
そして祖母が死に、その葬儀が行われる際に様々な過去の事実が見えてくる。
正義感の強い次男は過去になにをやったのか?
そして東京から来たカップルの関係はDVが介在しており
そのことは解消できるのか?その関係は正常なものか?
「赦し」は本当に成立するのか?
「そして人生は続く」。
KERAのメンバーの喜安がKERA的なる物語を構築した。
そして、その物語が本当に面白く、一瞬たりとも退屈しない舞台が出来上がった。
すべての人に向けて必見の舞台!
7月12日まで。
公演期間が短すぎ!もったいない。