作・演出、野木萌葱。
南北線「王子」駅5番出口を出ると、すぐに三角形の小さな雑居ビルがある。
その1階にひっそりとこの舞台のポスターが掲げられていた。
ここはライブなどをするスペースなのか?
地下室に階段を下り、入っていく。
まるで、コツーン、コツーンと靴音が響いて来そうな場所。
昭和の初めにタイムスリップしたかのような気になる。
受付で予約していたチケットを受け取る!
今回、一般席と傍聴席という二種類の席がある。
一般席は、舞台と同じ高さから見る。
傍聴席は吹き抜けで中二階になったテラスのような場所から
見下ろすような形で観劇する。
初めて見るのですが?
と言ったら一般席を勧められた。
舞台下手の方の最前列に座る。
隣に、Tさんが座っていらして驚いた!
舞台は東京裁判の法廷である。
その法廷の中の弁護団のテーブルのみが描かれる。
折り込みチラシの中にこの舞台に関する資料
「東京裁判法廷略図」が入っていた。
舞台は検察団に向かって開かれてる。
僕の座っている舞台上手は裁判官席となっている。
最近、東京裁判でのインドの裁判官、
パール判事についてのことをNHKなどの番組で見た。
彼に関する書籍も出版されている。
小林桂樹監督の映画「東京裁判」も見た。
あの裁判は、いろいろな問題が含まれている。
野木はその問題点をうまく90分余りの舞台の中に織り込んでいく。
弁護団のテーブルでの会話は
基本的に、この裁判で無罪を獲得するためにどのように論告をしていくか、
動議を提出していくかの話し合いがされている。
そうして、彼らは口々に検察官や裁判官に対して発言をしていく。
ここでは議事進行役の「開廷!」などの声や、
検察官、裁判官のセリフは聞こえてこない。
唯一ヘッドフォンをつけた星之宮衛(井内勇希)のみが
通訳として彼らの発言を日本語で語る。
時々、彼の発言が本人の意見となる。
弁護団は混乱する。
極度に緊張感のある舞台が90分間持続する。
それが数メートル前で行われているのだから
観客もかなりな覚悟で臨むことが求められる。
そして、その覚悟したことによって得られるものは大きい。
彼らの弁護団としての戦略的な意見や戦術の弁論の合間に
彼ら自身、彼ら個人が垣間見えてくる、
そこにぐぐっと来る。
戦後すぐの時代、闇物資に手を出さず清廉潔白を貫こうとしている弁護士。
彼は法を遵守するということを命がけで行っている。
また、広島で被爆した弁護士。
報復権についての質問を受け、被爆を経験したものたちは、
絶対に報復などしないと身体を震わせながら語るシーン。
こういった個人の思いが強く出るシーンに感動。
法廷での戦いも結局人間というものが
出るんだということが良く理解できる。
その本質的なことをきちんと描いている佳作。是非!
23日まで!