新聞に学校の裏サイトについての記事が掲載されていた。
裏サイトの存在が、中学では7割、高校では9割にのぼる。
本作品のオープニングはスクリーンにパソコン画面が投影され、
そこに裏サイトへの書き込みが繰り返されるというもの。
ある高校で事件が起きた、あるクラスの生徒がバタフライナイフで
同級生を5名殺害し、数名に重傷を負わせた。
当然、彼は刑務所(少年院?)に入り、そこから十数年経って出所する。
そのクラスの担任の先生が風間杜夫。
彼は、その事件について教育委員会から糾弾され、
裁判で、
「クラスには、いじめがなかった。」
という嘘の証言をさせられる。
教育委員会の指導でこのような発言を行った。
しかしながら、風間先生は教職を追われ追放される。
現在は、山林を持っている教え子の土地の空き地にあった
廃屋を改造して住んでいる。
まるで隠遁生活のように、風間と妻の梅沢昌代が。
その家は山林から切り出された杉の間伐材を使って
まるで教室のような部屋となっている。
そこで風間は教え子たちに事件を起こした元生徒(有薗芳記)
を迎えて同窓会を行おうという計画をする。
舞台はその同窓会の翌日の話。
そのような事件があったので、
ほとんど同窓会に参加するものはいない。
風間先生に近しいものたちが数名集まるのみ。
有薗芳記は、同じパソコン組み立て工場で働く派遣仲間と一緒に
翌日、風間の家にやってくる。
鐘下辰男の戯曲と演出は、舞台に緊迫した迫力を生む。
あれから十数年経ってもこのような事件は
決して人々の心から消えない。
その様々な思いが登場人物のセリフを通じて見えてくる。
人間同士の魂のこすりあい。
簡単に赦すことができればどれだけ救われるのだろうか?
と思いながら舞台を見続ける。
有薗は先生の裁判での発言に裏切られたという思いがあり、いまだに恨んでいる。
また風間先生は自分の人生を無茶苦茶にした生徒(有薗)に対して
受け入れようとするポーズを取りながら、強く謝罪を要求する。
そこに、同級生のガールフレンドを殺された男子生徒(高田恵篤)や、
学校の先生になった同級生(酒向芳)などが絡んでくる。
互いの思いが舞台上に交錯し一筋縄ではいかない。
有薗の同僚(内野智)が有薗の肩を持ち対話をかき回す。
アジテートする。
内野智演じる男の狂気が舞台の空気をさらにヒリヒリしたものに変えていく。
鐘下は演出で、さらにその強さを加速する。
見ている方は、気持のいいものではない強さがビンビンと伝わって来る。
隣で見ていた女性が音に反応して、ビクッ!とし、身体全体を震わせていた。
爆竹、電動ノコギリ、チェーンソウなどの音が舞台中に響き渡る。
このような凶器を間近に見ることによって実際の殺戮現場の想像をさせる。
と同時に、有薗がそのような凶行になぜ至ったのだろうか?
風間先生が叫ぶ
「もう一度戦争が起こらないか!」
「すべてをリセット出来るのは戦争だけだ!」
「戦争が終わった後のわたしたちは、ただ真っ直ぐに進むだけだった。」
平和な現代だからこそ、このようなことが起こるのか?
このような事態に私たちはどう対処するべきなのだろうか?
そのことを強くヒリヒリとした調子で突きつけられた舞台だった。