ハシムラ東郷という日本人「学僕」(苦学生兼家内使用人)がいた!
それも100年ほど前の話。
1900年代に米国へ留学した日本人たちは
学費はおろか生活費もままならない暮らしを余儀なくされ、
「学僕」という名の「メイド」として米国家庭で働いていたそうである。
東大卒のエリートが海外でお手伝いさんをしているような状況?
ハシムラ東郷は、主要な新聞雑誌に辛口のコラムを執筆し、
当時米国で最も知られている日本人となったそうである。
最初にハシムラ東郷が登場したのは
1907年「日本人学僕の手紙」と題されたコラムだった。
彼の視点がなかなかにシニカルであり、
そこはかとないユーモアがそこには湛えられていたという。
2008年慶応大学の宇沢美子教授が
「ハシムラ東郷」(@東京大学出版会)という本を出版し、
話題になったそうである。
この出版を契機に本作の構想が具体的になったに違いない。
事実、この宇沢美子教授の役がこの舞台で登場する。
Rea Irvinの手になるハシムラ東郷のイラストがいい。
本の表紙にも、この舞台のチラシの表紙にもこのイラストが使われている。
目が吊り上って口髭があり、メガネをかけている。
シャツにネクタイ姿なのだが大きなエプロンをつけ家事をしながら本を読んでいる姿は、
すべての事象を象徴的に顕わしていると考えられる。
本作は、宇沢美子教授の書籍を基に
演劇の台本に翻案されたものだろうか?
井上ひさしなどが好んで書く、評伝とはまた別の表現形式。
本当にハシムラ東郷は実在したのか、
米国人から見た、日本人総体を象徴した想像の人物なのか?
がわからなくなる。象徴なら象徴でいいのだが、
散漫な象徴だと見ているものの感覚がぶれる。
坂手洋二は巧みな作家だけに彼の意図はいったいどこにあったのだろうか?と思う。
あの頃の日本人は?ということなのか?
米国人が黄色人種をどう見ていたか?ということなのか?
折り込みに、巽孝之慶応大学教授が寄稿していた。
そこで、以下のようなことが書かれてあった。
日清日露両戦争の期間は、西欧における
日本趣味(ジャポニズム)と黄色人差別(イエロー・ペリル)とが
ないまぜになっていた時代である。
明治維新1868年での開国によって
初めて西欧諸国に日本という国が広く知られることにより、
その珍しさと、有色人種なのに高潔で生意気という要素が、
旧来の西欧人の価値観を揺るがしたのではないだろうか?
アジアが今くらい台頭してくる時代が来るとは、
西欧列強諸国は誰も想像していなかったに違いなかった。
ハシムラ東郷が日中戦争に参加し、
西部戦線で中国人たちを殺戮しなければならないシーンが印象的だった。
ハシムラ東郷は、その後、亡命し
米国へ移り住むというエピソードも興味深かった。
面白い要素がたくさんあるのにもかかわらず、
情報が飛びすぎて、とっ散らかった印象が残った。
それとも、見ている僕のリテラシーが低いのか?
是非、もっとわかりやすいバージョンを!
再演を希望します!
客演の田岡美也子がいい。そして植野葉子に華がある。
彼女たちの存在があることによって
燐光群の俳優たちの存在をも際立たせていた。