この施設は京橋にある。
正確にいうと東京国立近代美術館フィルムセンター。
へええええ。美術館なんだあ。そう、映画館ではないのだ。
ここにはものすごい数の映画が収蔵されている。
昔の映画を最もいい状態で見るならここ。
映画は1秒24駒が通常であるが、
この映画館は戦前の秒20駒や秒18駒の映画も映写可能なのだ。
昔の映画の好きな人たちがここに集まってくる。
最も多いのが、定年を迎えて、
毎日が日曜日の年金生活をしているような人たち。
しかも男の人が圧倒的に多い。
ああ、僕も30年後とかに、もし生きていたとしたら
こんな風に公共の映画館に通うことを日課のようにして、
暮らしていくんだろうか?みたいなことを考える。
年金生活おじさんたちは、そこで知り合いになり、
ゆるやかなコミュニティのようなものが作られる。
彼らは、食料や飲み物を持参する。
それがまた、微笑ましい。
フィルムセンターに行く前に、
家で淹れたお茶やコーヒーのポットを持参する人、
家でこしらえたお弁当や、おにぎりを持参する人。
映写室のロビーで、それを食べていることの、
しみじみとささやかな幸せをかみしめている感じが、
好きなのだ。
また、ある年金生活おじさんたちは、
パンやジュースを買ってくる。
倹約家の人はコンビニでも、SHOP99などの
お店で買ったものを持ってくる。
食べる事を倹約して、映画をみようという気持ちが
なんだか嬉しい。
入場料は各回入れ替え制で一人500円。
65歳以上は300円で観られる。
一日のおこずかいが1000円だとしても大丈夫。
交通費と入館料と食べるものを少々購入しても
何とかやっていける。
そうして毎日、フィルムセンターに通う人がたくさんいる。
そのおじさんの中で、舞台をしょっちゅう観にいらしてるおじさんがいる。
新国立劇場(@初台)で当日の朝10時からだけ売り出される
格安席のチケットがある。
Z席。というのだが、前売り完売の公演の当日券を求めて並びにいくと、
しょっちゅうこのおじさんに遭遇する。
僕たち夫婦は、このおじさんを「Z席おじさん」と呼ぶようになった。
このおじさんは、ありとあらゆる舞台芸術や映画を見ている。
しかもこのような、公共劇場で遭遇する確率が非常にに高い。
このおじさんはいつも帽子を被っている。
何をしていた人か知らない。
でも、この「Z席おじさん」に会ったらほっとする。
お金はなくても、芸術鑑賞は出来る。
そして、ココロの栄養をたっぷりと吸収されているのだろう。