師走、忠臣蔵にてご機嫌伺い候。
とある。赤穂浪士討ち入りの二日前、
三鷹市芸術文化センター星のホールに
三名の噺家と一名の女講談師がやってきた。
彼らは、ここで忠臣蔵をモチーフに芸をする。
まずは二つ目、柳家さん若の「真田小僧」。
そして、女講談師、一龍斉貞寿の講談「武林嗟七粗忽の使者」。
続いて、喬太郎登場。
忠臣蔵かと思ったらクリスマスイブの新作落語。
「聖夜の義士」という題名。
なんだ、忠臣蔵のネタじゃなくてもいいのか?
と思っていたら、最後に部長が「大石部長」であるとわかり、
忠臣蔵と細―い線でつながっていた。
クリスマスイブに、在庫の「使い捨てカメラ」をサンタさんの恰好をして、
街ゆく人にサンプリングしてくれと頼み込む部長と、その部下のお話。
いけてない面々を可笑しく描くのに喬太郎ほど上手い人はいないんじゃないか?
独特の喬太郎作ならではのキャラクターが爆発する。
部下はイブにデートを申し込み上手くいきそうになるのに、
部長からどうしてもやってくれと頼まれ断れない。
会社はいまだに「使い捨てカメラ」を販売している中小企業。
部下の男は、この日のために「つぼ八」を予約しており、
念のためということでホテル「東横イン」を予約していた。
この庶民感覚がいい。
実は、それでもいいじゃんと思えることを
喬太郎は逆説的に描いているのではないか?
喬太郎の描くラブストーリーはどことなく少女漫画を彷彿とさせる。
喬太郎ファンの若い女性が多くいるというのもなんとなく納得できる。
こうして喬太郎師匠は、SWAの中でも独自の路線を歩んでいる。
創作落語の面白さとは、結局は底の深さである。
奇妙でも荒唐無稽でもいいので、その底が限りなく深いものの中から
本当に面白いものが生まれてくる。
そういう意味では白鳥や談笑は、これからノビシロがまだまだあると言える。
噺家は、40代前半くらいまでは、若手でいいのかも知れない。
喬太郎師匠自身、入門したのが平成元年。
26歳の時である。真打に昇進したのがその12年後だった。
喬太郎、38歳である。
続いて、柳亭市馬。
小さん師匠の弟子。
名前は何度も見ていたのだが今回見るのは初めてだった。
芸達者で芸道が深いことが良くわかった。
発声がいい。
たたずまいと品のある落ち着いた感じがいい。
彼が演じたのが「七段目」。
「七段目」とはまさに「忠臣蔵」の七段目のこと。
先日、平成中村座公演で見たシーンが蘇る。
落語の「仲村七蔵」でもこの「七段目」のシーンが出てくる。
兄弟の出会うシーンがいい。
芝居を演じる若旦那と使用人。
ときどき、懸命に演じているかと思ったら、
それを客観的に見てあきれる階下の主人などの反応とのギャップが大きくて面白い。
仲入り後、スタンドマイクが高座の前に置いてある。
紋付き袴の市馬が登場。歌を一曲披露してくれる。
この市馬さんの芸は、真打昇進パーティなどの
十八番になっているそうである。
喬太郎の真打昇進の時にもこの歌が唄われたそうである。
「元禄名槍譜 俵星玄蕃」
威勢のいい歌を、あの市馬師匠の声でやられるのがいい。
トリは喬太郎師匠の「俵星玄蕃」。
忠臣蔵の「義」や「忠」という言葉がきちんと伝わってくるようなお話だった。
ときどきポーンと笑いをとるはずし方は本当に芸の極み。
蕎麦屋と俵星玄蕃との掛け合いが最高。