井上ひさしさんが亡くなり、彼の戯曲を最も多く演出した舞台演出家、
栗山民也が「情熱大陸」に取り上げられたのはつい数ヶ月前のことだった。
栗山民也の舞台の演出家としてのこだわりがその番組から見えて来た。
カメラは時に武器になる。
栗山がその番組の中で一度だけその武器を向けられるのを
拒否したシーンがあった。
舞台前日の劇場内での俳優が全員そろった通し稽古(ゲネプロ)の時だった。
初日を迎える直前の緊張感がその表情に漂っていた。
毎回こうしたプロダクションを行うことの大変さと高貴さに
頭の下がる思いだった。
今年栗山民也は58歳になる。
大学を卒業して舞台の道に入って30年余り。
この道一筋に活躍し続けてきた人はやはり面白い。
彼の書いた「演出家の仕事」という本が出ていたなあ!
と番組を見て思い出した。早速、図書館で借りて来る。
栗山民也が最初についたのが木村光一だったんだと本書を読んで知った。
木村光一の「地人会」が懐かしい。
良質の舞台を何度も見せてもらった。
劇作家の齊藤燐と木村光一は演劇界の天井人のように感じていた。
こんな高度な舞台を作る人たちはいったい。
そして、それは井上ひさしと栗山民也も同じ。
こんな人たちがいる演劇界の層の深さを思い知らされる。
もっと、もっと井上作品を積極的に見ておけばよかったと
悔やまれて仕方がない。
というくらい今、自分の中で井上ひさしという人がブームとなっている。
「マイブーム」という言葉があったが、あれはもはや、「死語」なのか?
本書は栗山民也という演出家を知るのに格好の書と言える。
生い立ちから、演出をするとはどういうことか?
ということ。
そして新国立劇場の芸術監督になったときに
やって来たこと。
そこで、国立の俳優養成学校を設立した経緯。
さらには、俳優論、戯曲をどう読むかなどのことが
栗山さん流に書かれている。
演出家の仕事は聞くこと。
という言葉が面白かった。
引用する。
世界の多くのもの、そして人間の感情の無数の動きから何が聞こえてくるのか、
それにしっかりと耳を傾けることが、出発点となるのです。
(中略)つまり「聞く力」とは、単に何かが起こったときの
音を聞くことだけではなく、
その裏で支える人間の心の動きを聞くことが大事なのです。
また演劇教育の項で、欧州の演劇に対する
考え方が述べられた部分が印象に残った。これは舞台芸術というもののもつ
公共性につながるような気がする。
ヨーロッパでは、生活の公共空間として絶対に必要なものを、
病院、学校、劇場の三つの基本と考えていると聞きました。
三つとも人間の命を扱う場所だからです。