「可哀想」にたかる蟻たちの話。とある。
ehonとは作・演出の葛木英が主宰の演劇ユニット。
彼女たちの世代の劇作家や演出家が続々と作品を発表しており
そのレベルの高さに驚いている。
中屋敷法人や柴幸男、吉田小夏(=劇場で見かけた)などなど、
その中の一人として葛木英がいる。
葛木さんとは以前、この座・高円寺で上演された
「モトロフカクテル」を見た時にばったりと出会った。
その「モトロフカクテル」主宰の高羽彩も
彼女と同世代である。
葛木の作品で、以前、ある種の残酷童話的な
舞台を見たことがある。
若いのに筆力があるのに驚いたことを記憶している。
折り込みに書かれてあって驚いたのだが、
葛木は、10年以上前に引きこもりだったと。
(いまは、その片鱗すら感じない。)
その体験をベースに新たな残酷童話を作り上げた。
童話といっても架空の場所の世界ではなく
現実世界に話を作り替えて創作がなされている。
長い間ひきこもっている少年の話。
彼は自室からまったく出ようとせず、
電話でメーカーなどのお客様相談室にクレーマーとして電話をかける。
電話を通じて、その時に対応した女性とつながっていきたいと願ったりしている。
しかし、当然、現代社会がそんなことを許すはずもない。
母親は保険の外交などをして、息子を育てている。
円城寺あや演じる母親がこの舞台のもう一つのキーになる。
彼女の行動によってこの家の進むべき方向が決まってくる。
彼女の夫(正確には婚約者だが)は現在3人目である。
一人目の夫も二人目の夫も失踪しており
彼らがどうしているかはわかっていない。
そして最初の夫との間に出来た息子と、
二人目の夫の連れ子の娘と一緒に暮らしている。
娘は母親に反抗的であまり家に帰ってこない。
家族の関係が壊れかかっている。
それを息子が引きこもっていることでつながっているという、
不思議な構造が描かれる。
彼のもとに通う精神科医(幸田尚子・クロムモリブデン)との交流が
ある種の救いをもたらしている。
そして、この一家は、衝撃的なエンディングの後に、幸福な家族となる。
逆説的な書き方かもしれないが、
それを願っているもう一人の自分が葛木の中にいるのだろう!
しかし、現実はそんなに簡単なことではない。
いくつかの事件や小説のシーンなどが次々と思い出されてくる。
決してハッピーではないその世界の先に
逆説的な幸福があることを描く。
葛木はそれを信じながらあえてこうしたエンディングとしたのだろうか?
二人目の夫の連れ子の娘が付き合っている
聾唖者の男性(佐々木潤)との会話が興味深かった。
佐々木は手話で話をしている。
彼女はしばらく付き合っているうちに手話を覚え、彼と話をする。
彼は手話だけなので何を喋っているのかわからない。
が、娘(佐藤みゆき・こゆび侍)のリアクションの言葉を頼りに
彼の発言を想像した。
そのシーンがとても印象的だった。
ある種の心の交感が行われているシーンとなった。