大森一樹監督の映画を久しぶりに見た。
「ヒポクラテスたち」で京都の府立医科大学生を描き、
「風の歌を聴け」(1981年・日本)で
神戸出身の東京の大学生と神戸の人々を描いた。
どれも僕の中で印象的な作品である。
大学に入ってようやく映画を観たりお芝居を観たりという
文化的なものに、自らの意思で触れることが出来るようになった。
こんなに幸せなことはないと思っていた。
自らがアルバイトして得たお金で自らのために何かをする
ということが当時の僕にとってはとても新鮮だった。
京都の駸々堂書店で購入した「風の歌を聴け」を
自宅に戻って読み始めて一気に読みおえた。
世界が、突然違って見えるような気がした。
こうした文章を書く作家がいるんだ!と。
大学1年生の祇園祭の頃だった。
初版の発行から2年が過ぎていた。1981年のことである。
その年の秋、学園祭で大学に大森一樹監督が来た。
大森監督はこの年に公開された映画「風の歌を聴け」について
詳細に語ってくれた。
その後、映画の中で出て来た神戸のロケ地巡りに行った。
何度も何度も神戸に足を運んだ。
神戸のことがとても好きになった。
その大森一樹監督の最新作である。
制作はCM制作会社でもあるADKアーツ。
CM制作会社がこうして映画を作るのはどういった事情なんだろう?
スーパーエキセントリックシアターの俳優たちが全面的に協力している。
場所は、桐生市にある動物園と遊園地が一緒になった場所。
ここで心理療法がおこなわれるのだった。
そこにあつまる奇妙な人々の群像劇と言ったらいいのだろうか?
彼らは何らかの心の障害を抱えていながら
こうした形で治療をしているのである。
映画の出演者の現実を通して現代社会の様々な問題点が浮き彫りにされてくる。
問題点を引き受けている人たちが、
最初に病んでいくという現実がある。
それを大森監督はユーモアも交えて淡々と語る。
凝った演出はしない。
予算的にもかなり厳しかったのだろうことが見えてくる。
しかし、この映画はそういう映画ではない。
それを逆手にとって遊んでいるようにも思える。
重いと感じられるようなテーマを飄々と描く。
群像劇として描かれる時に
同じ劇団の俳優たちが一堂に参加しているのがいい。
あまり時間をかけずに満足のいくショットが撮影出来たことだろう。
衝撃的なエンディングがいい。
そういったことは突然やってくるのだ!
とある種の真実が描かれている。
ヌーヴェルバーグ的な映画とも言えるのかもしれない。
「まぼろしの市街戦」(1966年フランス)を大森監督はかなり意識していると聞いた。
この映画を機会があれば見てみたい。