今年のソウル市民五部作一挙上演という無謀とも言えるプロジェクトの5作目である。
今回の公演のために書き下ろされた新作公演。
サンパウロというブラジルの都市に移民として入植した家族の物語。
近年、日系ブラジル人がまた、日本に戻って来て
働いたりしているが、そのそもそもは明治維新以降に
日本人がブラジルの農場に大量に移民として船で渡り
働き日系人コミュニティを作っていったという歴史があるからこそ。
戦前の日本人は家族や村単位で大量に各地に移民として
国境を越えそこで農地を耕したりして入植し現地に溶け込んで行った。
それはブラジルだけのことではなく、
ハワイ、米国カリフォルニア、満州、台湾、朝鮮などなど。
また蝦夷(えぞ)と言われていた北海道に移住するものもあった。
あの頃の日本人は積極的に外に出て
何とかしようとした人が多かったのだろうか?
そもそも日本が貧しかったからか?
そういうフロンティア精神みたいなのがどこから出て来たのだろう?
ということでソウル市民の5作目はソウルではなくサンパウロ。
室内の調度品などは同じ設定で俳優と衣装が変わっている。
そのサンパウロの文具商のある1日を描いているもの。
「ソウル市民1919」と構造が似ており「おすもうさん=関取」が
興業にやってくるというくだりも似ている。
ただし、ここはサンパウロである。
日本が戦争に突き進もうとする不安な情勢ではあるものの、
遠く離れた人たちは毎日を懸命に生きている。
日本を知ることが出来るのは1日2回の日本語ラジオ放送のみ。
それも電波の受信状態が悪いと良く聞こえない。
そういう状況で家族と親戚が一体になりながら懸命に生きている。
以前の日本はそうだった。家族や親戚は近くに暮らしているもので
彼らはいつも一緒にいてよしなしごとを話している。
たわいもない会話の端々に社会情勢や不安が見えてくる。
この文具店の次男が嫁をとる。
その嫁が本日サンパウロに到着し
初めて、この文具店に来て次男とここの家族と暮らし始めるという。
新しくブラジルに来た嫁の胸中はいかがなものだろうか?
新しい国、新しい環境、新しい家族。
井上三奈子がその婚約者を演じる。とても印象的だった。
今回、舞台を見ていて思った。
これは「サザエさん」の世界なのでは?と。
会話がきちんと届ききっちりとコミュニケーションをしようとしている人々がいて、
彼らは懸命にいまここにある現実に向き合おうとしている。
昭和的なこの感覚が戦前のサンパウロという
特殊な状況で強くあぶりだされる。
その親密な人間関係を丁寧に描いている
という意味でもこの舞台は昭和的であり、
それは個人的な見方ではあるが、サザエさん的であると言いいたい!
見ていて気持ちが良くなるのは何故だろう?
日本人的であるとは?ということを強く考える。
昭和の日本人が持っていただろうものが
目の前で再現されているからだろうか?
かくして青年団の舞台は魅力を持ったものになる。
独特でオンリーワンの世界が多くの幅広い世代を魅了する。
平田オリザさんが劇場にいること。
これはひとつの日本の宝であると思う。