「アスペン」は1991年、
ワイズマン第1作でもある「チチカット・フォーリーズ」は1967年の製作。
アスペンはスキー用品のメーカーにその名前があるように
言わずと知れた米国の高級スキーリゾート地である。
デンバー州にあるロッキー山脈のこの場所は銀の鉱山だったところ。
映画でも銀の鉱山で細々と採掘しているシーンが描かれていた。
いまは、銀鉱山としてはその役割を終えて、
高級ブティックなどが並ぶリゾート地となっている。
ここでリタイアメントして優雅に暮らす人々がたくさん出てくる。
芸術に関心の高い人が多く、絵を描く教室が出てきたりする。
画廊もいくつかあり、個展のパーティなどが行われている。
「ストア」でも思ったのだが、米国では、富裕層はみな年齢が高い。
若い時にがむしゃらに働いて早目にリタイアメントし
その後悠々自適な生活を送るのが理想とされていると聞いた。
いまも、同じような価値観で米国人は暮らしているのだろうか?
その考えが今も有効なら、
ここアスペンに出てくる人たちの生活は理想的と言えるだろう。
50歳代、60歳代、70歳代が中心の街である。
高齢化社会を目の当たりにしているようである。
日本もいまや25%以上が60歳代以上となっている。
キリスト教の教会に集う人々熱心な信者であり芸術を愛し、
冬はスキーをし、屋内ではテニスや水泳、ジムで汗を流す。
山の中腹には大きなリゾートの家が何軒もあり、
そこで暮らしている。
何不自由ない生活でも
彼らは心のよりどころを求めていく。
神父の話に耳を傾け、読書会に毎週集まり
課題図書について議論を交わす。
清潔で整った生活がそこにはある。
一見破綻のないように見える生活をワイズマンは丁寧に活写する。
どのドキュメンタリーを見てもワイズマンは音の使い方がうまい。
音が一連で流れるように編集がされているのだ。
この日はワイズマン・レトロスペクティブも最終日だった。
「チチカット・フォーリーズ」の上演では多くの観客が開場を待っていた。
何と、ドキュメンタリー映画に立ち見が出る。
階段には直接座り込む人がいて、後ろには立ち見の人が何人も。
ものすごい熱気でワイズマンの処女作を見る人々。
こうした映画にこんなに人が集まるのにビックリ!
この「チチカット・フォーリーズ」は精神異常犯罪者の
州立刑務所マサチューセッツ矯正院を描き、
米国でも一時、一般上映が禁止されたことがある。
その後、最高裁の裁定が下り、1991年に再上映の許可が降りた。
その時に、最高裁は映画の最後にクレジットを入れるように命令した。
その内容は、この矯正院は現在改善されています。
みたいなたぐいのことだった。
人間を人間として扱っているのかいないのか?
また、肖像権の問題も大きい。
ワイズマンはカメラを回しているときに被写体が拒否しなければ
承諾しているという前提でカメラを回している。
だからこそ、こうした興味深いドキュメンタリー作品が
たくさんできているのだろう。
ワイズマンの作品には肖像などをぼかしたりしたシーンはほぼないと言える。
(全部見たわけでないので100%ではないかも知れない。)
しかし、これは、今の地上波のテレビドキュメンタリーと大きく違うところである。