カーテンコールで作・演出の宅間孝行が永田恵悟の横で言った。
「本日はある男の人生の節目に立ち会って頂き誠にありがとうございました。」
まさにわたしたちはこの日、永田恵悟という俳優の人生の節目の公演に
立ち会った。この公演の副題にはこう書かれている
「永田恵悟 笑いと涙の引退興行」
東京セレソンデラックスのホームベースでもある
このシアターサンモールでそうした特別興行が行われた。
永田恵悟は本公演を最後にして俳優人生に別れを告げ、
新たな人生を歩んで行く。
人の人生の節目に立ち会うというのはとても劇的なことである。
その日その人はその場所で主人公になる。
それは人生の中で何度もないことかもしれない。
それをみんなはわかっていて温かく見送ったり受け入れたりする。
節目とは始まりでもあり終わりでもある。
公演チラシの中で宅間が書いていた。
今年の一発目は「終わりへの始まり」ではなく「始まりへの始まり」です。と。
同時に、今年の2012年をもって
東京セレソンデラックスもピリオドを打ち解散する。
永田恵悟がセレソンに入ったのは十数年前に遡るらしい。
熱心なセレソンファンにはさらに魅力的な構成だった。
その構成を取りまとめていくのがFMラジオのDJである。
広澤草がナビゲーターを務めラジオ番組の形式で
いくつの舞台がオムニバス形式で進行していくのである。
ナビゲーターが紹介する音楽はセレソンの舞台の思い出の曲ばかり。
各メンバーが思い出の曲をリクエストしているという構成で進められる。
チェンミンの二胡を使った曲や、センスの曲、そして吉田拓郎や
ボブディラン、クリームまで様々な曲が流れその曲とともに
セレソンの過去の公演のことがフラッシュバックしてくる。
今回は六つのシークエンスからなる構成。
その中で印象的だったのが「解散記者会見」と
「MY LIFE」、そして「決意の楽屋」。
記者会見は全編アドリブかと思えるほどのダラダラした感じが上手く出ていた。
ラジオ中継の現場ならではのリラックスした風景が心地よい。
また「MY LIFE」は夢を捨て切れない俳優志望の30代の男のことを描く。
努力もしないまま、バイトをしながらドラマなどのチョイ役をやり
俺の居場所はテレビだ!と大声で言っていたのが
キャパ200人くらいの小劇場で燃え尽きたいんだ!
というようなことを言ったりもする。
彼にはどちらかへむかっていく覚悟みたいなものがなく、
ただ何となく毎日を過ごしている。
本日の永田恵悟の人生と対比されるように見えてくる。
そして彼らの会話がとてもリアルだった。
須加尾由二の演出。
ラストの宅間孝行作・演出の「決意の楽屋」はやはり上手い。
永田の楽屋にやってきた泥棒(宅間孝行)が永田が戻って来たことで
その場を何とか取りつくろってごまかそうとする。
そうしたお笑いの文脈を経て、永田の個人的な話へ持っていく。
これは永田恵悟自身のセミドキュメントでもある。
彼の想いをナビゲーターの広澤が魅力的な声で救いとろうとする。
その時の永田の話し方や内容に彼の本音が見えてくる。
観客はそれを見て彼の人生を再認識し、応援しようと思う。
宅間の永田に向けての最後のラブレターのような公演だった。
その優しさが東京セレソンデラックスの魅力でもある。
次回公演も楽しみ。
次回公演はその名も「ピリオド」!
4月3日から、ついに、終わりの始まりが始まる。