本作は昨年の秋に「笹塚ファクトリー」で上演され、
大変な評判になった舞台。
東日本大震災後、そのテーマをいち早く取り上げ、
その奥にあるリアルな部分にまで切り込んだ作品。
上演後、あれを見たか?と話題になり、
本作品は2011年の千田是也賞や読売演劇大賞などの
各賞を受賞することとなった。
本作はその1年ぶりの再演である。
しかも舞台を大きな本多劇場に移して。
小屋が大きくなることで濃密さや伝わり方が
うまく出せないかもと心配していたが杞憂に終わった。
中津留章仁は、大きな舞台を生かし切り、
3時間15分休憩なしの舞台を緊張感を途切れさせることなく
終えることができた。
中津留の現実を見る目はクールである。
現実をきちんと見て、その闇の部分も含めて描こうとする。
本作は3幕からなる。
小田切議員の事務所(議員会館?)でのエピローグ。
これは震災前のことを描いたものである。
そして、被災した街の納屋で避難生活を送っている「蠅」という第2幕。
2011年の夏の話。
第3幕は「背水の孤島」と称して、その数年後の話である。
3幕の舞台は、ある警備会社のオフィス。社長室があるフロア。
ここで彼らは放射生廃棄物が福島から持ち出されないように、
そして、さらには東京に持ち込まれないように監視する業務を請け負っている。
日本国は新たに国債を外国人向けに発行しようと計画し、
その資金で新たにフランスから原発のプラントを輸入して
新規の原発を建設しようという動きがある。
政治家と生活者が対比的に描かれる。
そして、実際の政治や国家のことを決めていく上層部。
原発の被害者。などなどいろんな立場の人々が入り混じる。
原発の被災者は、ある基準以上の放射能を浴びた人である
ということがわかると「被災者手帳」が交付され補助金が下りる。
しかし、その一方彼らに対して世間一般が無言の差別を
生みだすことにもなる。
そうした個々のリアルなディテイルを中津留は丹念に描いていく。
簡単には調べられない現実がここではきちんと描かれている。
第2幕の「蠅」では海の近くの被災地の納屋で避難生活を送っている一家がおり、
彼らを国営放送のドキュメンタリークルーが追っている。
このシーンではいつも蠅が飛びまわる音が鳴り続けている。
妻を津波でなくした夫は補償金だけで細々と生活をしている。
東北大学の医学部に入った娘は、休学してこの被災地に戻って来ており
家族と暮らしている。
彼女は3月11日に地元に戻ってきており、地元の病院で被災し、
病院の屋上で数日間過ごすこととなった。
弟は高校生。東京大学を受験しようと考えている。
そこに近所のおじさんや学校の先生、
ヴォランティアに来ているNPOの人などが絡んでくる。
娘にはお腹に赤ちゃんがいる。その父親は?
そして息子も事件を起こす。
息子を責める先生と父親。
息子の本心を聴きだそうとドキュメンタリーの演出家が動き出す。
息子はカメラの前で語る。
カメラで常に撮影されているという緊張感がこの幕にはあり、
とても効果的だった。
そしてカメラという違う視点が、
観客に多面的な視点を意識させてくれるように思った。
第3幕は今回の上演に当たって、初演とは少し違ったものになったそうである。
ドラマティックなサスペンス溢れる第3部だった。
2幕のリアリティを超えて、強いフィクション性が
中津留のメッセージみたいなものを帯びて伝わってきた。
トラッシュマスターズ「背水の孤島」。
ものすごくチカラのある舞台だった。
次回作も楽しみ!