佐藤雅彦と言えば、ある年齢の広告関係に携わっている人なら
みんな知っている名前。
1980年代から90年代にかけて数々のヒットCMを生みだした天才。
湖池屋の「ポリンキー」「ドンタコス」「スコーン」
そしてサントリーの「モルツ」「フジテレビ」のキャンペーンなどなど。
その多彩な仕事は広告批評から出版された
「佐藤雅彦全仕事」(現在、絶版@マドラ出版)という本で紹介されている。
佐藤さんはその後電通を退職され独立する。
1999年あたりだから
佐藤さん45歳の頃である。
佐藤さんは慶応大学の湘南藤沢キャンパスでゼミを持ち、
「佐藤雅彦」ゼミはSFCでも超人気のゼミとなった。
そこの研究から「ピタゴラスイッチ」などが生まれている。
2006年には東京芸術大学の大学院の教授となり、
今は、横浜にある大学院で教鞭を執りながら、
個人事務所ではこうした文章を書く活動をしたり、
「ピタゴラスイッチ」や同じくETVの「2355/0655」の
企画・監修も手掛けている。
その佐藤さんが雑誌「くらしの手帖」に連載したものをまとめたものが本書。
タイトルが佐藤さんらしい。
佐藤さんはある雑誌のインタビュー(多分「美術手帳」か「BRUTUS」だったか?)で
答えていた。
とても整理整頓が好きで、事務所の棚や引き出しがとてもきれいに
整頓されているのを写真付きで見たことがある。
自分がふだん感じていた何気ないことを相対化し理論化する。
五感的なものをロジックにしていく。
そういうことが出来るのが佐藤雅彦の特徴ではないか?
映像の断片、ビジュアルの断片を並べることによって
人は勝手に物語を構築するというのがとても面白かった。
そして、物語にすると忘れにくくなる。
これは、ある種の認知科学のお話なんではないか?
佐藤さんはそのことに自覚的なのかは、わからないが、
認知科学の話に置き換えて読めてしまう
エピソードがたくさん出てくる。
また市井の人々が工夫して暮らしている姿に
佐藤さんはとても共感している。
少しでも便利にしていくために
楽しくしていくためのアイデアを生み出すことが
とてもスキなんだろう。
そこには、よりよく生きるということが含まれるから。
静岡県「戸田」(へと)出身の佐藤雅彦さん。
自然がちゃんと機能している戸田という街が
そうした彼を育んだのだろう。
感覚的なイメージの中にある、何かキラキラしているもの。
それを佐藤さんは見つけ出し、光をあてる。
そういうことが簡単に出来てしまう
天才の手になる
日常を綴ったエッセイ本である。