シアターコクーン・オンレパートリー+キューブ2012と銘打ったこの企画。
KERAの書いた戯曲をKERA本人が演出した今回のヴァージョンと、
来年行われる、蜷川幸雄が演出するヴァージョンの二つが続けて上演される。
KERAはいつもの架空の国の出来事をこれでもか?というくらい
緻密で複雑に構成しながらも面白くわかりやすく描ききった。
その筆力たるやいまや日本の演劇界を代表すべき劇作家である。
ある港町の物語。ドン・ガラスという大富豪(生瀬勝久)が
この街の実際の権力者であり街を独裁的に支配している。
彼には後妻(峯村リエ)と実の三姉妹がいる
(長女:久世星佳、次女:緒川たまき、三女:安倍なつみ)
そこで働く執事長(大鷹明良)と
メイド長(犬山イヌコ)とメイド長の夫(マギー)。
犬山とマギーには子供がいたのだが
小さいときに亡くしている。
さらに、大富豪のお屋敷で働くことになったトビーアス(小出恵介)と
その友人(近藤公園)。
この二人の学校の先生である池田成志。
池田は後妻の峯村リエと関係がある。
街には教会があり司祭(西丘徳馬)がおり、市長(久保酎吉)がいる。
港町に密航で流れついた男(丸山智己)は、
大富豪の祖母(木野花)が溺れそうなところを助けこのお屋敷に来て
そこの次女(緒川たまき)とねんごろになる。
この街は階級社会となっており、ここでは下層階級とみなされている
仕立屋(三上市朗)と16歳になる娘(夏帆)は
つつましく暮らしている。
ユダヤ人とナチスドイツを想起させるような美術や衣装などが登場する。
仕立屋とマギーは古くからの友人。
マギーは新しく大富豪の家で働くことになった小出恵介と近藤公園を連れて、
仕立屋に服の注文をしにくる。
そこで出会った近藤は、夏帆のことを好きになる。
三姉妹の恋も描かれる。
長女の久世は司祭に恋をしており、次女の緒川は流れ者の丸山に、
そして三女の安倍なつみは小出恵介に。
そこに錬金術師とその助手がやってくる。
錬金術師は山西惇。その助手は大倉孝二。
大倉は白痴ながら、特殊な能力を備えている。
とここまで描いてメインとなる登場人物の概略を紹介したのだが、
ものすごいキャスト!
豪華なキャストをふんだんに使って、
KERAのやりたいことがほぼすべて叶えられているのではないか?
とすら思える舞台になっている。
今、紹介しただけでも19人のキャスト、
それ以外にナイロン100℃の俳優たち(原金太郎、皆戸麻衣、水野小諭)
THE SHAMPOO HATの俳優たち(野中隆光、日々大介)など
9名の俳優たちを合わせて総勢28名の俳優が出演している。
メインキャストの物語を紡いでいくだけでも大変なことなのに、
それ以外の俳優にもちゃんと出番があり、
さすが多くの劇団員を抱えるナイロン100℃の劇作家だな!と感心する。
これだけの俳優たちがきちんと活かされ
まったく破綻することなく、強い物語の構造が作られたということに
素直に喜び、その物語世界に4時間近くも浸れたことに感謝!
そういう意味でも、この舞台は、とてもとても贅沢な舞台である。
KERAはこの舞台を描きながら、何を考えたのか?
独裁の行きつく先の社会か?それとも、それでも人生は続くということなのか?
どんな悲惨なことになってもたくましく生きている人々を
KERAはいつも愛情をもって毒をもって描く。
そのブラックな愛情の中から時々見せられる笑いと救い、
しかし、それも唐突に裏切られる。
一筋縄ではいかないという現実をそのまま
この世界で呈示したのだろうか?
とにかく、年末に傑作に出会ったのは確かである。
KERAの今年冒頭の公演「百年の秘密」と比肩するくらい
素晴らしい舞台となった。
30日まで!