副題は、「コミュニケーション能力とは何か」。
著者の平田オリザは現在
大阪大学のコミュニケーションデザイン・センターの教授である。
当時、大阪大学にいた鷲田清一教授から誘いを受けたそうである。
鷲田はその後、大阪大学の学長になる。
文系出身は珍しく、大阪大学が新たな方向へ
進み始めたと思えるような出来事だった。
金子みすずの詩のなかに
「みんなちがって、みんないい」
というものがあるが平田は現実的には
「みんなちがってたいへんだ!」
と言う。多文化共生社会とはそういうものである!と。
企業や大学でもこれからは様々な人が集まって創造的な作業を行うと、
新しい発想などが生まれやすくなると言われている。
多様性が重要。
人種や民族などが入り混じり文化や言語が違う人たち同士が
何とかコミュニケーションを取りながらやっていく、
やっていかなければならない時代がもうすぐそこにやって来ている。
その時に、そこに集まったひとたちがみんなちがっているのは当然である。
ということは、暗黙知みたいなものはそこにはなく
「わかりあえない」
という前提でコミュニケーションを取っていかなければならない。
では、どうするか?
平田オリザは今まで無数にやってきたコミュニケーション教育の
数々の事例を基にわかりやすく解き明かしてくれる。
その実際の現場を一部捉えているのが、
想田和弘監督のドキュメンタリー映画「演劇2」である。
平田オリザは呼ばれたらどこへでも行く。
演劇の普及、芸術の普及、演劇を通じた教育の普及のために。
平田オリザが三省堂の国語の教科書に演劇教育の
戯曲を掲載してずいぶんの時間が経った。
現場の教師はどのように教えていいのかわからない、
そこに平田が訪ねて行き、実際に子どもたちに
戯曲を作らせ自ら演じさせる。
演劇という人類最大の「遊び」の原点を見るようである。
鳥取の中学校で行われた実際の授業が「演劇2」で取り上げられている。
外に開かれた場所で、どのように他者と接していくのか、
他者が介在することによって話し言葉はどう変化するのか?
というようなことが詳細に語られる。
こんなに平易な言葉で、ふかいことを語ってくれている本はなかなかないのでは?
いままで「みんなといっしょがいいんだよ」という日本社会でよかったものが
変化し始めている。
そういう時代だからこそ、コミュニケーションが必要であり、
同時に、コミュニケーションを取りやすい場を作るという能力も求められる。
ここで取り上げられた「くりかえしの文法」牧野成一著(@大修館書店)に
ついて調べたがわからない。検索しても書籍が出てこない。(涙)
最後に、本書で一番印象に残った箇所を引用する。
私は自分が担当する学生には論理的に喋る能力を身につけるよりも、
論理的に喋れない立場の人びとの気持ちをくみ取れる
人間になってもらいたいと願っている。
強いリーダーシップへの疑義と、その危険性については、
第5章で詳しく述べた。
どちらのリーダーシップが社会を幸福にするかは、私にはわからない。
しかし私は、弱者のコンテクストを理解する能力を持ったリーダーを望む。
また、そのような学生を育てたいと強く願う。