燐光群の舞台を見たのが久しぶり。
2012年はタイミングが合わず見ることが出来なかった。
2011年の「たった一人の戦争」以来か?
昨年、坂手洋二の戯曲「普天間」(青年劇場)は傑作だった。
坂手の戯曲はやはり、素晴らしい。
本作を見て再度、確信した。
史実とフィクションをないまぜにしながら舞台は進行していく。
戦前、太平洋戦争で日本はオーストラリア軍とも戦争をしていた。
そして、多くの捕虜がシドニーから西へ300キロの「カウラ」
という街に移送され、そこで捕虜生活を送る。
ここには千人以上の日本兵捕虜が国際法の規定の下に
丁寧に捕虜生活を送ることが許されていた。
最前線の悲惨な戦場とは大違いの環境。
本作は、そのカウラで起こった史実を基に構成された舞台である。
このカウラで「カウラ・アウトブレイク」と言って、
多くの日本兵捕虜たちが集団で逃走し自らの命を無駄死にさせた事件が起きた。
1944年8月5日のことである。
この史実を知る日本人は少ない。僕も知らなかった。
実は、この事件オーストラリアでは有名で教科書にも載っており、
ほぼすべてのオーストラリア人が知っているらしい。
アフタートークで坂手さんがおっしゃっていたのだが、
「ゆきゆきて神軍」というドキュメンタリー映画に出演していた
奥崎謙三という強烈なキャラクターの主人公が居たが、
彼はカウラの捕虜収容所にいたらしい。
ニューギニアで人肉食までして何とか生き残った
日本人捕虜たちは恥をしのんで捕虜として生活している。
これでいいのか?という想いが集団化して
彼らの集団脱走(言い方を変えると、集団脱走特攻隊みたいな。)を後押しした。
戦前の日本とはそういう国だったんだと思った。
坂手は、このカウラでの史実とシンクロさせるように
映画学科が新設された芸術大学の課題制作で映画を作るという
フィクションを挿入する。これがとてもいい。
坂手の映画に対する愛情と
ものをちゃんと作るとは?そして、それをどのように教えるべきか?
ということがちゃんと書かれている。
映画学校の教師たちが生徒に伝える言葉の数々が素晴らしい。
同じ映像関係の学校に勤務する自分にとって、
素晴らしい師を見たようであった。
そして、カウラの話が映画製作の女学生たちとシンクロし
現在につながっていく。
島次郎の美術、竹林功の照明、そして島猛の音響が素晴らしい。
燐光群30周年の傑作が誕生した。
実はカウラのこの事件のことを扱ったドラマがあった。
「あの日、僕らの命はトイレットペーパーよりも軽かった」
脚本家の中園ミホの大叔父さんがカウラの捕虜をしていたことがきっかけで、
これを脚本にし日テレでドラマ化されたそう。
坂手と中園は30年ほど前、同じシナリオスクールで学んでいたらしい。
アフタートークで彼らは30年ぶりに会い、対談をした。