鴻上尚史作・演出のこの、KOKAMI@networkも12回目を迎える。
毎回豪華なキャストで大掛かりな舞台を構築する。
鴻上が若手俳優たちと行っている「虚構の劇団」との両輪は、
鴻上の活動の幅の広さを語る。
小さな舞台でまだ無名若手俳優たちを多く起用して作る
「虚構の劇団」と
有名な俳優(タレント)が出演して予算も大きな
この「KOKAMI@network」どちらも鴻上尚史である。
今回は宮田俊哉(Kiss-My-Ft2)をメインキャストに迎えての公演。
だけに、宮田のファンと思われる女性が会場を埋めていた。
鴻上はいつもの「ごあいさつ」と書かれた手書きの折り込みに
丁寧に今回の舞台のテーマみたいなことについて
見開きをびっしりと文字で埋めている。
この手書きの文字、先日、神奈川近代文学館の「井上ひさし展」で見た
井上ひさしの手書き原稿に似ている!
丸文字でびっしりと書かれているのだが、読みやすくわかりやすい。
本作では「こどものこと」について書かれている。
幼児虐待のニュースを子どもを持つとまともに見られなくなると鴻上は記し、
想像力を上回るリアリティみたいなものがそこにあるんだと書いている。
自分自身に置き換えると、残念ながら子どもがいないので、
子どもに対する真のリアリティが生まれてこないのかもしれない。
が、それはそれで仕方がなく、その現実を受け止めるしかない。
本作はその子どもを持つ母親(高岡早紀)が
現実の世界と合わせ鏡のような「人間」がいない国に紛れ込み、
そこの王子(宮田俊哉)やタヌキの家来(竹井亮介)とともに
「冥界」に失われたものを探す旅に出かけるというもの。
「鎮魂のための巡礼の旅」とでもいうものを
鴻上はある種の荒唐無稽な寓話劇に変換していく。
ばかばかしい冥界に紛れ込んだ3人は、
ヘンテコな面々に会い、いろんなことを経験していく。
まるでRPGみたいな設定である。
以前、糸井重里が作った「MOTHER」という
RPGをやって感動した想いでが蘇る。
舞台は高岡早紀の住んでいる実家からはじまる。
福島第一原発の近くだろうか?放射線量が高い場所に高岡は住んでおり、
避難勧告が出ている場所なので
役所の職員が避難するように高岡の家に説得にやってくる。
高岡は3・11の津波に呑みこまれた夫が帰ってくるかも知れない
という思いからこの家を離れられずにいる。
そして高岡には一人息子がいる。タクヤという一人息子。
高岡はタクヤを連れて、先ほど書いた
合わせ鏡の国「キフシャム国」へ向かう。
夫に会えるかもしれない、冥界への鎮魂の巡礼である。
大がかりなプロジェクションマッピングの技法で
舞台に映像が投影されることによって舞台に奥行きが出る。
そして、大がかりな仕掛けが随所に施される。
いい意味でのけれんみがたっぷりな荒唐無稽の舞台!
笑えるシーンがたくさんあるのだが、
ここで描かれていることは「死者の書」のように深い。
難しいテーマをここまでのエンターテイメントに
昇華出来るチカラが今の鴻上の中にある。