国際交流基金に山﨑さんという方がいる。
彼女と飲んでいて、一番好きな劇作家あるいは戯曲は?みたいな話になった。
その時に山﨑さんがまっさきに挙げたのが劇作家のバーナード・ショウであり、
この「ピグマリオン」という戯曲だった。
名前くらいしか聞いたことのなかった僕は
彼女にこの戯曲のことを訪ねてみた。
すると有名な映画「マイ・フェア・レディ」の原作となっている
戯曲であるという。
あれから数か月が経ち、新国立劇場での上演があるというので出かけて行く。
映画では、下町出身のイライザ役のオードリーヘップバーンを
言語学者のヒギンズ教授が、その言葉を矯正し、淑女の言葉遣いが
出来るようにさせ実際のご婦人に仕立てあげるというもの。
そのギャップで女性はこのようにも素敵に変わるのか?
ということをミュージカルという形式で描いた
まさにハリウッド的な名作となった。
名もなき人が貴族の仲間入りをするという
まさにシンデレラストーリーである。
この文脈の物語がハリウッド的であり努力して人は成長し変わっていく、
そしてチャンスをつかみ成功していくというもの。
21世紀に入ってこうした文脈が崩壊しつつある。
成功するということの価値が変わってきており
上流階級の扉が開かれそこに入っていくことが
決して幸せなものではないと感じ始めているから。
本作を見て、この戯曲は「マイフェアレディ」という表層を扱った映画に隠された
奥深いものがあるのだな!ということがよーくわかった。
そしてあの山﨑さんが、あれだけ力説して好きになるということが理解できた。
人間と階級社会とは?
そして人間が人間に向き合うとは?
ということがこのロマンチックコメディの中にきちんと描かれている。
バーナード・ショウはアイルランド・ダブリン生まれの劇作家であり
演劇批評家であり音楽評論家でありそして社会主義者である。
という折込チラシでの紹介がいい。
1856年に生まれ36歳で戯曲を書き始める。
1925年にノーベル文学賞を受賞。
マルクスの「資本論」を読んで社会主義の影響を受ける。
と書かれており、まさにこの戯曲はそうしたバーナード・ショウの
考え方が表れている舞台になっているな!と思った。
舞台に華をくれるのは石原さとみ。
彼女のキャスティングなくして今回の舞台の成功はなかったのでは?
「組曲」のCMなどでも独特の存在感を示す彼女。
今年、再演された井上ひさしの戯曲「組曲虐殺」でもとてもいい演技と存在感だった。
発声がいい。舞台で生える、魅力的な俳優に言えること。そして動きがいい。
宮田慶子が彼女のいいところを素直に伸ばしている。
まるでイライザとヒギンス教授のように。
大竹しのぶ、そして大竹さんに続く宮沢りえ、深津絵里の次に続く蒼井優とかと並ぶ
世代として石原さとみは存在している。
すべての人が楽しめる舞台となっておりヒギンス教授(平岳大)の
階級的で独善的な姿も魅力的。
人間的に成長したのはヒギンスではなくイライザだった。
それが見られるだけでも十分面白い。
そしてすべての人は平等である、というバーナードショウのメッセージがそこから聞こえてくる。
休憩入れて3時間15分。12月1日まで。