関西の演劇の雄、維新派の松本雄吉とマレビトの会の松田正隆がタッグを組み
まったく新しい芸術的な舞台を完成させた。
あるゾーンの中に入って行こうとする男2名と女子高生。
ゾーンは基本的に半径30キロ圏内は立ち入り禁止区域。
以前、大きな隕石が落下して、その場所から30キロ圏内が
ゾーンと呼ばれるようになった。
そこではいつも雨が降っていて水が漏れているような
状態がずーっと続いている。
このモチーフを見ると、たいていの人は福島第一原発の事故とその後、
そして漏れ続ける汚染水のことを思い出さざるを得ないだろう。
そのストーリーが基本軸にあり、
圏外で暮らしている普通の人々の生活が並行して描かれる。
マレビトの会の難解な舞台とは真逆の
ちゃんと誰が何を言っているのかというストーリーもの。
松本の演出でこうしたセリフが普通にある
会話劇が行われたというのは画期的なことではないか?
階段状になった舞台は、地層を表しているようでもある。
グレイと言うのかシルバーで塗装された
いくつかのユニットがいろんなところに配置されている。
奥行きを利用した贅沢で完成度の高い美術セット。
山中崇、占部房子の夫婦は小さな子供がいたのだが
小さいときにその子を亡くしている。
占部の姉でラジオ局でパーソナリティをしている武田暁。
この3人を中心に会社の同僚やその妹、建築家、映画監督などが
その物語に絡んでくる。
チラシを見るとタルコフスキーの映画「惑星ソラリス」や「ストーカー」のイメージを
描いたというのも何となくわかる気がする。
近未来都市を描いた現在の年の光景が「惑星ソラリス」。
水が漏れ続ける30キロ圏内のゾーンは「ストーカー」のシーンだろうか。
今回、松本はさらに
演出メモで映画を意識した46シーンからなるという記述をしている。
いくつもの場所を舞台の各地に設定し、
それがフラッシュバックのように繰り返されたり、
いろんなシーンが同時並行で描かれたりする。
同時期に起きたことを場所を変えて描く
それらのことを映像編集を通じて再構成するという
映画編集の技法を松本は演劇的な舞台で再現しようと試みた。
そして、それはある意味とても興味深いものになった。
女優たちがエロチックでその性なるものと聖なるものが描かれる。
これはどちらも「生きる」という根源みたいなもの。
その欲望的な日常と死者に出会う場所ゾーンが圏内・圏外というだけで隔てられている。
ゾーンの水を飲むことによって、飲んだ人は死者に出会えることができる。
こうした松田正隆が得意とする宗教的なテーマと松本が好む猥雑さが同居し
何とも魅力的な舞台が完成した。
12月8日まで。