今年の観劇体験での収穫は
この劇団チョコレートケーキと出会ったこと。
硬派なドキュメントドラマとでも言うべき舞台を作り続けている劇団。
劇作は古川健、演出は日澤雄介。
前作は「連合赤軍事件」を扱ったものだった。
そして、今作は「大正天皇」の半生を描いたもの。
明治と昭和に挟まれた大正時代は15年間続いた。
大正15年12月大正天皇は47歳でその生涯を終えた。
この舞台はその亡くなるシーンから
回想形式というカタチをとって始まる。
今回の紅一点で大正天皇夫人、いわゆる皇后妃殿下を演じた
松本紀保が彼の生涯を語ると言う形で舞台は進行していく。
駅前劇場という狭くて濃厚なスペースだけに
松本紀保をはじめとする俳優たちの息遣いが聞こえてきて
とても緊張感のある2時間10分となった。
皇室の人たちのコミュニケーションの仕方とは
このように丁寧でゆったりとしていたんだろうなあ!ということを実感させてくれる。
どの人に対しても節度を持ち、相手のことを常に慮って発言をされる。
そうした皇室が何百年も培って来ただろう「日の本」の
伝統みたいなものがきちんと再現されている。
この人たちの会話はまるで「一期一会」のよう。
言葉の一言一言に「魂」が宿り、真摯に丁寧に言葉を紡ぎ、
そうした気持ちのこもった発声をする。
俳優たちのレベルの高さと演出の丁寧さが
この舞台の完成度をここまで高めたのだろう。
また、この舞台は大正天皇とその妻、そしてその周囲に仕える人々の
愛情を描いた物語であるとも言える。
特に皇后役の松本紀保の夫に対する愛情の深さ、
そして現実を静かに受け入れていく力強さが
抑制された演技の底から見えてきて
これは、本当にすごい舞台を見ているんだという気持ちになった。
侍従の人々が献身的に陛下に仕え、その気持ちを慮った
発言を聴くと涙がこぼれそうになる。
この人たちはいつも相手のことばかり考えて
生きているのではという気になる。
皇室の持っているそのような空気は今も同じく続いているのではないだろうか。
維新が興り、富国強兵、殖産興業などで強い国を目指した明治時代、
明治天皇があの子は帝に向いていると言った、昭和天皇の昭和時代。
その間にあって、平和的でフランクで優しい「情」を持ち続けた
大正天皇の心情に心を馳せた舞台となった。
明治天皇が息子である大正天皇に向かって「情」を捨てろ!と
何度も語るシーンが印象的だった。
とても丁寧に造りこまれた舞台。俳優たちの着ている衣装がいい。
決して派手ではないが、上質な服を身に着けていることが
小さな劇場なので良くわかる。
テーマがテーマだけに年配の方もたくさんいらっしゃっており、
東京という場所の文化発信力のレベルの深さを感じた。
22日まで。