人は誰でも依存症に陥る可能性をもっているということが
本書を読んでいるとよーく伝わってくる。
何かのきっかけで自分自身もこうした依存症に陥るんじゃないかと思いながらも
楽しく読んだ。吾妻ひでおが自らのアル中体験を客観視し、
それをやや引いた構図で淡々と描く。
しかも3頭身のキャラクターでかわいいので、あれあれ?と
妙な錯覚を起こしてしまう。
まるでディズニーなどのアニメーションのキャラクターの世界のような?
実際は、もっと汚くて臭くてえげつないこともたくさんあったのかもしれないが
吾妻ひでおの画によってそれが薄められ、記号化される。
そうして、本書は一つの淡々と描かれたマンガ日記のようなものになっている。
衝撃的な吾妻ひでおの告白的マンガ「失踪日記」から8年経って本書は発行された。
吾妻さんは、連載漫画の締切などのプレッシャーから鬱状態になって現実逃避し失踪する。
さらに現実逃避しようとしてアルコールに浸り続ける。
起きているときは常にアルコールで朦朧(もうろう)状態にあり、
そのまま気を失うように眠る。
程度の差はあるが自分でもこういう状態になるときがいくつか思い当たる。
新橋の駅前で酔っ払ってインタビューを受けているサラリーマンたちも
その予備軍かも。
社会の繁栄の陰にはこうした依存症の人たちが確実に生まれてくる。
身体が満たされ安心した世の中になることにより心の健康が阻害される。
このことをトラッシュマスターズの中津留章仁は最新作の「虚像の礎」という舞台の中で描いていた。
本書の中にもアルコール依存症の夫にDV(ドメスティック・バイオレンス)を
受けながらも寄り添う妻が登場する。これも共依存症という症状。
本人たちはそれを依存症だと気がついていないというのが現実。
吾妻さんは中央線沿いの武蔵野丘陵あたりにあるアルコール依存症患者を
入院させ断酒させる施設に入ることになった。
入院する前の吾妻さんの状態を描いた回がとても衝撃的。
徘徊しながら自販機などでワンカップなどの酒を飲み、吐く。
そしてまた飲み、また吐く。その繰り返し。
そうして口から何も摂取できないままただただ衰弱していく。
これは身体の危機だ!
ということで入院することになり、断酒剤を毎日のみ
規則正しい生活をして日々を過ごす。
ここに来る人は本当にいろんな人がおりダメダメの患者さんが何人も登場する。
同時に看護する側の看護士さんたち医師、介護士なども描かれる。
吾妻ひでおの手にかかるとみんなかわいい人として描かれるのだが、
そこで描かれている事実自体はえげつない。
ここまでの状態になってしまうと二度と酒が飲めなくなる。
いったん飲んでしまうと依存症の泥沼にふたたびはまってしまうという。
これってほとんど麻薬と同じやんと驚きつつも、
いつそうなるかも知れないという危機意識を常に持ち続けようっと
思ったのでした。