作・演出の吉田小夏の最高傑作のひとつになるのではないだろうか?
小津安二郎の映画にも似た、そして向田邦子のTVドラマにも似た。
ある家族の大正から昭和にかけての時代のことが語られる。
「花子とアン」などの世界観にも似たあの時代の。
大きな商家の家だった一家が商売が傾き始め没落していく。
まるでチェーホフの「三人姉妹」のような。
大きな商家なので、奉公人が何人かお勤めしている。
地方出身者だろうか、住み込みでこの商家で家のいろいろなことをお手伝いしている。
青☆組を代表する女優、福寿奈央がその奉公人を演じる。
彼女がとても魅力的。
福寿さんはもっと多くの舞台に出るといいのにと青☆組を見るといつも思う。
本作は、吉田小夏さん自身の系譜をたどり
実在の曽祖父をモデルに書かれたものらしい。
それを想像しながら吉田小夏は一言一言のセリフを生み出していったのだろう。
自分とかかわりのある家族を描こうとすることによって
戯曲が魅力的になり一期一会なチカラが引き出されてきたのでは?
もう、これからどうやってこの商家を守っていくのだろうという
時期を迎えたこの家。
主人を亡くして女手ひとつで切り盛りするのが吉永静子の役を演じた文学座の渋谷はるか。
彼女は毅然とした態度であるプライドを持った生きざまを見せてくれる。
それに寄り添う奉公人たち。
これは、奉公人も含めての家族のようでもあり。
そうしたことが古来から日本ではふつうに行われてきたんだろうなあと想像する。
古典落語でも商家の話は良く出てくる。
旦那さんと番頭さん小僧さん丁稚さんや
関西で言うとこの、こいさんやいとはんなどが出てくるのが
まさに今回の劇世界と通じる。
そこに金を出すスポンサーになってくれるものが現れる!
このくだりは「花子とアン」の炭鉱王、吉田鋼太郎が
華族出身の美しい出戻りの仲間由紀恵との結婚話にもにた構造。
男はここの家の娘を嫁にと言うのだが、娘は学校を出て
教師として働きはじめたばかりなので、嫁に入るということが出来ないと。
怒る男性。女主人の渋谷はるかに詰め寄るのだが、毅然とした態度で断る渋谷。
「あなたのお姿が醜いのではなく
お心のことを言っておるのです」
みたいな渋谷のセリフが心を打った。
さらに青☆組の藤川修二がいい。
彼は年配の俳優で不器用なところもあるが
その実直さそのままの役が今回の舞台の役だった。
長くこの商家で勤めてきた奉公人でもある。
ある日、女が子供を捨てに来た、その子を藤川はわが子のようにして娘として育てて来た。
その子もここで奉公人として働いている。
少し知恵おくれなのか?その子が藤川は愛おしくて仕方がない。
自らの命が尽きるまでこの子の面倒を見ていかなければという覚悟がここにある。
何もない市井の人の様々なドラマの断片がコラージュされたように提示される。
心が本当に美しい方が作った作品。