汽水域(きすいいき)とは海水と淡水が交わる場所のこと、
島根の宍道湖などが有名。
僕が今住んでいる市川市にある三番瀬の内陸に入っていく場所も汽水域。
そこには多くの生物が暮らしている。
海水と淡水の両方で生きることのできる生物もいる。
その中でも一番私たちになじみがあるのが「うなぎ」だろう。
「日本うなぎ」は日本の川で成魚になってそのまま川を下り
マリアナ海溝のあたりまで南下し産卵する。
その稚魚がシラスウナギとなって大量に黒潮づたいに日本に北上してくる。
そのうなぎの稚魚の漁獲量が激減して問題になっている。
実際「うなぎ屋」さんでうなぎを食べる回数は減り、
年に1回か2回のごちそうになった。
食いしん坊の日本人は海外のうなぎにも目をつけ食べるようになり、
日本うなぎではない海外のうなぎも絶滅危惧種にならんとしている。
本公演の脚本は長田育恵(てがみ座)、演出は扇田拓也(ヒンドゥー五千回)。
長田はこれまで金子みすゞ、宮沢賢治、江戸川乱歩などの
明治、大正などの時代に生きた人たちを描いたファンタジック評伝劇
みたいなものを多く描いていた。
若いのにこうしたものがよくかけるな!と感心したことを覚えている。
その、てがみ座が新たに現代劇を上演した。
現代の貧困を描いたもの。
フィリピンの海沿いのスラムに住む人たちと、
横浜の寿地区という二つの場所が並行して描かれ物語が進んでいく。
どちらもグローバル経済のシステムからこぼれ落ちた人たちが登場する。
貧困から脱出しようとして貧困のスパイラルに陥っていく。
猥雑な感じの設定と舞台美術(杉山至+鶴屋)が
ある種のアングラ的な要素をかもしだす。
フィリピンのその街ではスラムの再開発の動きが起きており
住民間でも反対派と賛成派に分かれた運動が起きている。
沖縄の基地問題、成田闘争などいつも
こうしたその場所に住んでいる人とそれを変えようとする人の葛藤が起きる。
イスラエルとパレスチナの問題などはその典型的な例。
そして、これらの問題は和解して合意して終息を迎えるということがとても困難。
長田はそうした現実に向き合いその現実を丁寧に紡ごうとする。
フィリピンから日本に出稼ぎに行った若者。
大きな夢を抱き、家族に仕送りが出来ると思って
肉体労働を日本でやっている。
彼は毎日懸命に働くのだが、
業者が世話をした住むところの家賃と光熱費、
そして日本にやって来た時の渡航費用と多額の手数料などの
返済で働いても働いても借金が逆に増えていくという
むちゃくちゃな状況である。
同じ場所で働かされている多額の借金を背負った日本人。
この二人のどちらかが死ぬことで
彼らにかけた保険金で二人の借金がチャラになると
拳銃を持った業者のお兄さんが告げる。
このお兄さんを信じてついてきたのに・・・。
フィリピンの若者は絶望的な気持ちになる。
その若者と対比的に描かれる日本人のオジサン。
この対比、実は同じところでつながっている問題でもある。
貧困問題は実は
うなぎの回遊ルートと同じように世界につながっているのだ。
長田の伝えたいことが舞台でうまく再現されただろうか?
ぜひ劇場で確認してみて欲しい。12月6日まで。