副題は「もうひとりの創業者、ウォズニアック自伝」とある。
井口耕二翻訳。言わずと知れたアップルの共同創業者の一人であり、
いまだに名誉社員であるエンジニアの中のエンジニアが
55歳の時に自分の半生をライターに語った。
何度も何度も語って、それをウォズの話し言葉でまとめたものが本書である。
ウォズが物心ついた頃からいままでのことが語られる。
アップルCEOだったスティーブ・ジョブスと
対照的なキャラクターとして描かれたもう一人の
スティーブの本当の話がここにあるのかも知れない。
もちろんウォズ個人が語ったというカタチになるので、
負の側面みたいな描写が若干薄い気もするが、
読んでいるとウォズはそもそもあまり
悩まない能天気な人だったのでは?
父親はロッキード社で秘密の仕事をしていたエンジニアで
ウォズの幼少期の疑問についてすべてきちんと説明し答えている。
これって、エジソンの母親にも似たエピソード。
ウォズのお父さんの秘密の仕事とは軍事関係のものだったのでは?
と想像するが本書には書かれていない。
ウォズのお父さんとの子供時代の関係が
ウォズをエンジニアへの道まっしぐらにしたことは間違いないだろう。
鉱石ラジオを一緒に作ったり。
親子で当時はまだ珍しかったアマチュア無線の免許を取った話などとても興味深い。
本書はある種の教育書として読むこともできる。
しかし、ウォズはあまりにも天才過ぎて、
中学あたりから学校生活に溶け込めなくなっていく。
ある種、オタクであり純粋なエンジニアの気質を持っているのだから、
それは必然のことだったのかも。
当時のIQは200を超えていたとか。
米国で秀才や天才が学校内で孤独感にさいなまれるという
話を聴いたことがあり、
ウォズはまさに孤独な天才だったのでは?
ウォズはその孤独感を
発明をしたり何かを作ったりして解消しようとする。
そして完成したものを見て驚いたり感動してもらうことで
自己承認が満たされていったのでは?
このエピソードは以後、ウォズの性格と生活を規定する。
そして、本書は後半がむちゃ面白い。
20代前半でスティーブ・ジョブスに出会って
ウォズはヒューレット・パッカード社でエンジニアをやりながら
アップルコンピューターの開発を始める。
本当はHP社でパーソナルコンピューターを作りたかったのだが、
上層部の理解が得られず、ウォズは自分がやりたいことをするために
HPを退社しアップルⅠ、アップルⅡの開発に邁進する。
本書を読んで良く分かったのは
コンピューターって基盤とモニター、記憶装置、
そしてキーボードがあれば
あとは、それをどのようにプログラミングして走らせていくのか?
ということを考えればできる!ということだった。
ウォズのシンプルな話の中からそんなことが伝わって来た。
本質的なことをウォズが理解しているから
とってもわかりやすく伝わってくるのだろう。
そして、そんな人だからこそシンプルでキレイで短いコードを書き
コンピューターシステムを作ることができたのだろう。
そこにデザインやマーケティングのセンスを持ち込んだのが
スティーブ・ジョブスだったんだな!ということがとても良くわかった。
そうしてアップルⅡは、爆発的に売れて
アップルの株式上場で莫大な利益が生まれた。
ウォズはそれ以降社会貢献活動などを行うようになる。
誰かのために何かをやりたいと思うのは
こうしたエンジニアに共通のことなんだろうか?
とビルゲイツ財団のことなどを思い出した。