言わずと知れた村上春樹の名作「海辺のカフカ」を舞台化したもの。
何度も上演されており今回は再々演では?
世界中を回るツアーが行われており、その中の日本ツアー公演。
蜷川さんが10月に80歳におなりになるということでその記念公演も兼ねている。
先日、香港で倒れたことを聴き
蜷川さんの体調がすぐれないのが心配。
しかし80歳になるまで現役第一線で毎月のように
舞台公演をやりつづけるパワーにはホント恐れ入る。
蜷川さんの後を継ぐのは誰なんだろう?
演劇の制作者はそのことを考える必要があるのでは?
井上尊晶さんが受け継ぐのか?
脚本を手掛けたのはフランク・ギャラティ。
まず、あの原作を3時間強の舞台劇にしたことに感心した。
わかりやすくエピソードを分解して再構築していく技術が求められる。
そして、カフカ青年の成長物語を基軸にして
彼をめぐる群像が奇妙な幻想を引き起こす、そんな舞台となった。
世界幻想文学大賞に選ばれた小説らしい世界観が良く出ている。
その世界観がとても良く描かれているのが舞台美術だった。
すべての美術セットは大小のガラスケースに入った状態となっている。
それが縦横無尽に大きな舞台上を動き回り各シーンを作っていく。
ガラスケースの中には少女役の宮沢りえ、大きな森、そして神社の鳥居、
もちろん、あの図書館、図書館の執務室、
鈴木杏(さくら役)の住んでいるアパートの部屋、
ジョニーウォーカーさんが住んでいる部屋、
猫がたくさん住んでいる公園とベンチ、
さらには高速バスや2トントラック、土星のカタチをしたネオン管などなど、
ありとあらゆる要素がガラスケースに詰め込まれている。
その膨大な数をどのように作って見せていくのかを考えるのは大変なことである。
莫大な予算をこの舞台美術に詰め込んだことがわかる。
再々演くらいでようやく黒字化できる、そんなプロジェクトだったのでは?
10800円というチケット代はこれを見ると決して高くない!
ガラスケースはさらにLEDの蛍光灯が埋め込まれ自らが照明の代わりにもなる。
ガラスケース全体が明るくなり。真っ黒な舞台の中に幻想的に浮かび上がるのだ。
美術は中越司。照明は服部基。
音楽の担当は阿部海太郎。
繊細で美しいメロディがこの幻想的な世界をさらに深めていく。
音楽は人間の情緒をもっとも揺さぶっていく。
その効果が最大限に生かされている。
美術も音楽も予算をちゃんと使って最高のものに仕立てている。
贅を尽くす。という言葉があるが。
まさにその贅の極み体験が出来るのでは?
宮沢りえを初めとする俳優陣もいい。
宮沢さんはすでに定評があるので今回もさすがだなと思う。
佐伯さんのスマートさと少女の透明さの演じ分けに注目。
図書館司書の大島を演じた藤木直人の演技を舞台で初めて見たのだが、
とてもいい。あの自然体はどこから来るのか?
あの役だからなのか?とても彼に似合っている役だった。
さくら役の鈴木杏も蜷川さんの舞台には何本も出ているので安心。
そして木場勝己演じるナカタさんがいい。
ナカタさんは原作でも魅力的な役であるが
木場さんがその難しい役をギリギリのところで演じる。
喋り方や立ち居ふるまい方をずいぶんと工夫されたのだろうと察する。
そして、中野区の野方から始まり高速を通って
本州四国の横断橋をわたり高松のとある
図書館や神社などへと至るカフカの冒険が描かれる。
舞台美術と音楽と衣装、そして俳優たちが一体になった美しい舞台が完成した。
海外公演の評判をぜひ聞いてみたいものです。
上演時間3時間5分。10月4日まで。