NHKのETVで「ニッポン戦後サブカルチャー史」という大変優れた番組をやっていた。
昨年シーズン1が宮沢章夫講師のもとで行われ、
今年、好評につきシーズン2が放送された。
内容の濃いサブカルチャーの話を毎回テーマを変えて語り合う。
そのレギュラーゲストとして、年上の講師を相手に議論を深めていったのが、
本作に出演している風間俊介だった。
風間さんのトークの内容が素晴らしく、
この人恐ろしく頭がいいんだな!と感心して、風間俊介のファンになった。
本作はその風間俊介が狂っていく兵士を演じるというもの。
休憩入れて2時間40分という長丁場。
観客席はさすがに女性ファンが多い。
トラッシュマスターズの中津留章仁が外部演出を依頼された
初めてのケースでは?(違っているかも)
海外の戯曲の翻訳版を中津留さんが演出する、
などという冒険が新国立劇場で行われる。
そうした自由な創作の現場を維持しつづけられてこその公共劇場であろう。
その使命をまっとうしていって欲しい。
舞台はバグダッド。2003年に実際にイラクのバグダッド動物園で
酔ったアメリカ兵が虎を射殺した、という記事をもとに、
劇作家のラジブ・ジョゼフが戯曲を書いたらしい。
2009年に初演され、2011年にはブロードウェイで上演された。
この作品は、ピューリツアー賞にノミネートされたという。
社会的なことを扱ったものに対して与える賞が米国にはある。
そこである種のバランスが働く。米国の素晴らしいところでもある。
しかし、この事実は米国がイラク戦争を行ったことによって始まった。
2001年のWTCのテロへの報復の一環なのか?
ブッシュ政権はイラクに大量破壊兵器があると言って、イラク侵攻を行った。
結局、大量破壊兵器は発見されず、いまになって
米国は最初から大量破壊兵器はないと知っていたのに派兵したことなどが
報道されるようになった。
今年の映画で「アメリカンスナイパー」はまさにイラクでの話。
ベトナム戦争を扱った「地獄の黙示録」や「ディア・ハンター」なども
戦争を経験した兵士たちが心を病み狂っていく様をリアルに表現している。
本作品もその系譜にある。
虎(杉本哲太)は小さい子供をあまりの空腹だったときに捕まえて食べてしまったことを
後悔しながら生きていた。
そして、風間俊介演じる兵士に射殺される。
風間が虎に向けて銃を向けたのは、仲間の兵士の手が目の前で食いちぎられたからだった。
その後、虎は幽霊になって風間の周囲をさまよう。
虎はさまよいながら過去の過ちを考え続ける。
哲学をする虎である。
米国軍の派兵で現地の人々との通訳をする現地の人がいる。
安井順平がその役を演じている。イラクと米国の間に入った安井は、
お互いの間に入ってどうにか双方が歩み寄れないか?
と努力しようとするのだが?
本作でのこの安井順平がいい!この舞台でカギとなる役である。
イキウメの安井順平として有名だが、
最近はWEBドラマやTVCMなどにも登場し、その活動の幅が拡がっている。
安井のお笑いで培った独特のつっこみの間が素晴らしい。
中津留章仁が安井順平を演出するということが行われたという意味でも
この新国立劇場の試みはとても有意義だったのでは?
現地のイラクの高官?が登場してくるところをもっとテンポを上げるか、
どうにかするとさらにしまった舞台になるのでは。
高官の喋り方が同じ感じで続くのが原因かも知れない。
12月27日まで。