前川知大という劇作家がいる。「イキウメ」という劇団を主宰している。
この「散歩する侵略者」は「イキウメ」で初演されたらしい。
今回はキャストを変えて、G-UPのプロデュース公演。
演出は「THE SHAMPOO HAT」の赤堀雅秋。
赤堀の演出の独特の時間感覚は今回も生かされていた。
言葉と言葉、いや台詞と台詞の間に言葉にならない独特の「間」を作る。
その「間」が赤堀の演出では非常に長く取られる。
その時間感覚が独特のテンポと人間関係をあぶりだす。
今回もその演出が非常にうまく機能している。
だからプロデューサーも赤堀に演出を依頼したのだろう。
僕は、前川知大の戯曲は初めてだった。
最初、観劇予定などまったく考えていなかった。
僕が頻繁に読んでいる、WEBの演劇レビューのHPで
「しのぶの演劇レビュー」というのがある。
高野しのぶさんという方が、このコーナーを一人で運営している。
ものすごい量の舞台を見ている。
HPの扉には、年間200本の観劇レビューとあるが、
僕の印象ではもう少し多くの舞台を見ているような気がする。
彼女のレビューは素直で、的確。
数年前から比べると、文章も舞台の見方もどんどん上手くなっている。
この舞台のことが、彼女のレビューに書かれており、
さらにe-plusで割引販売をしていた。
それでネット予約をして見に行くことにしたのだ。
チケット代の4200円が3000円だった。
基地の近くの海沿いの町。
二軒のうちが向かい合って、軒を並べている。
そこに、宇宙人が侵略して来て、街の住人に寄生する。
彼らは何かを調べるために、街を散歩する。
この戯曲の面白いところは、第三者の寄生によって、
その寄生された人と、されていない家族や友人、
近所の人々との人間関係があぶりだされてくることだ。
普通に暮らしていれば何も無い日常を、
他者の侵入を許すことによって、新しい関係が芽生える。
寄生された人のココロの中は、宇宙人かも知れないが、
寄生された人はまさしくそこにある人だから。
Aさんは、見た目はAさんのままである、
だからココロが変わってもAさんだと僕たちは思う。
この構造が面白い。
もちろん、Aさん自身が寄生されなくても心変わりすることもあるだろう。
ヒトは変わるものである。
寄生されて変わってしまうAさんと一緒にいるうちに、
それを取り巻く人々が変わっていき、彼らが変わっていくことで、
今度はまた、寄生されたAさんがさらに変わっていく。
関係性によって変容することが描かれる。
そのことを象徴的に演じた、寺十吾演ずる夫と、妻を演じた、猫田直がいい。
小林顕作の喋りが相変わらずで面白い。
そして、広澤草が少し魅力的だった。
舞台が暗転するたびに、戦闘機の爆音が劇場の闇を支配した。