宗教とテロのことについて中津留章仁が考え自分の言葉で紡いだ
濃厚な2時間半のドラマ。先日、パリでテロが起きた。
フランス政府は我が国は戦争状態に突入した!と伝えた。
イスラム国は自分たちの犯行であると声明した。
実行犯はフランスへ移民した人たちやベルギー在住の人たちだった。
現在、マイナス金利政策となり新自由主義的な考えを主体とする
資本主義経済の体制自体がにっちもさっちも立ち行かなくなって来ている。
右肩上がりが永遠に続くだろうと思われていた成長神話が限界を迎え、
ほころびが見え始めて来ている。
そうして格差がますます拡がっていき、
数パーセントの富裕層が大半の富を握る社会となってきている。
本作にはイスラム教徒役が何人か登場する。
パキスタンから出稼ぎに来て自らパキスタン料理の店をやっている男。
本作はこのパキスタン人が経営する料理店が舞台となっている。
そして、そこにイスラム国に行って戦いたい!とやってくる
イラン人とのハーフの日本人男性。
彼はイスラム教徒であるのだが、同性愛者でもある。
現在、いくつかのイスラム国家では同性愛は死刑を意味するらしい。
そして、本作の主人公である日本人の女性弁護士(川崎初夏)。
彼女は国選弁護人などをやっている途中で自らの意識が変化していき、
イスラム教に改宗する。
彼女は結婚していたのだが夫がクリスチャンということもあり
合意して離婚することとなった。
元夫はこの店なども含めてこの地域の不動産を管理する不動産業を営んでいる。
3人のイスラム教徒に、不動産業の男、さらには近所の塾講師、
区議会議員、警察官、刑事、宗教学者、そしてOLなどが
この店に集まっていろんな人間模様が描かれる。
中津留さんのいつものストレートで
メッセージ性の強い台詞が今回もマシンガンのように繰り広げられる。
それは確かに中津留さんが今の世の中のことを考えて自らの思考を経て
獲得してきた言葉である。
自ら考えて出て来た言葉は強い。
そうした意味の言葉を中津留さんは戯曲の中で女性弁護士に語らせたり、
区議会議員に語らせたりする。
言葉の力によって、対話によって何らの解決を図ることが出来ないのだろうか?
と繰り返す。
そして中津留はその掛け声がある種の理想でもあり
現実はなかなかそうはいかないのだ!ということも知っている。
その葛藤の中からこうした作品が生まれ、
その葛藤がこの戯曲に深みを与えているのだろう。
現在、多様性が大切である、と多くの場所で言われているが、
私たちは本当の意味での多様性を受け入れられる国民なのだろうか?と考えた。
難民や移民の受け入れなども含めて、
私たちの国はどのような道に進んでいくのだろうか?
経済原理だけで突っ走って来た時代は終焉を迎えつつある、
それを再構築していくのに決して戦争を利用してはいけない!
という中津留さんの強い想いが伝わってくる。
と同時に人類はその愚行を何千年にもわたって繰り返して来た
というのもまぎれもない事実である。2月28日まで。