コンセプト・構成・演出:宮沢章夫。
学生時代から宮沢章夫の作るものが好きだった。
「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」では、その斬新な表現に驚き、
脱力系の文章「牛への道」などを初めとするエッセイも多数拝読した。
そして、「遊園地再生事業団」の
実験精神に満ち溢れている演劇作法に感心し、
さらには「NHK・ETV」で講師を務めておられる
「ニッポン戦後サブカルチャー史」はむちゃむちゃ知的好奇心を刺激する番組だった。
そんな、30年以来のファンである宮沢章夫さんが
こまばアゴラ劇場で初めて公演を行われた。
「ワークインプログレス」と銘打ったこの企画は、
現在の少子化や女性の働く問題、そして女性が子供を産むこと、
さらには妊娠という現象や妊娠に至るまでの男女のセックスのことなどが
語られる。
最近政府が、「一億総活躍社会」と銘打っているのだが、
現実は必ずしもそうなっていない。
先日
子育てしながら働いている母親が
「保育園落ちた、日本死ね!」
という文章がまたたくまに拡がって社会現象となり国会でも取り上げられた。
ママたちが国会前でプラカードを掲げて静かなデモを行っているらしい。
宮沢さんは本作で、妊娠から出産して子を育てるというテーマを中心にしながら
現代の私たちの社会状況を批評的に読み解く試みをされている。
少子化、女性の活躍、男性の協力が出来ているのか
そしてシングルマザーや非正規の雇用の拡大や格差の拡大などなど、
様々な問題がこの中には含まれている。
本作には、妊娠、出産、セックス、結婚などに関する様々な文章が引用されている。
どこを、どのように引用して構成していくのか?というのがポイントとなる。
チェーホフから川上未映子の「乳と卵」、山崎哲や唐十郎の戯曲、
さらにはある病院のリーフレットの文章まで。
オープニングが印象的だった、
鄭亜美(青年団)がまっすぐに観客に向かって語りかける。
「世界で15分間。たった一組のカップルだけがセックスをしていた時があった。
その幸福な15分間を体験した二人の間・・・」
というような意味のセリフだった。そこから本作は始まる。
その抒情的な言葉が現実と交錯していく。
愛し合うという行為とその後の出産を経た現実を
私たちは同時に受け入れていく。
その現実を宮沢さんは多くの引用した文章縦軸に置いて、
そこから生まれてくる子どもにまつわるエピソードを描いたエチュードを横軸として挿入していく。
エンディングで羊水検査をした娘が
ある高級なレストランに母親と姉を呼んで相談するシーンが印象的だった。
笑いの中に社会的な批評が込められた70分の舞台。
この日は、初日ということもあり
アフタートークで宮沢さんと芸術監督の平田オリザさんが来てお話をされた。
青年団の俳優たちの子どもは、今や40名を超えたという話には、
これからの私たちの働き方や生き方を考える上でのヒントを与えてくれた。
話はTPPの著作権延長などの話や、ワイズマンの映画の話、
そして差別や格差の話ヘイトスピーチがなぜ生まれてくるのか?などという話で盛り上がり
あっという間に30分が過ぎていった。
宮沢さんらしい、シャレた笑えるしかもシリアスな舞台。16日まで。おススメです。
2000円!