帯には「演劇を活用した授業が『新しい学力』を育てる」とある。
現行の知識偏重型の教育システムから、新たな創造性を高めていく教育への
移行が叫ばれている。
大学入試改革として、多様な人材と多様な価値を持った才能を入学させようという
試みが始まりつつある。
いままでの筆記試験だけではなく、
もっと総合的にその人を判断し、大学に入学させる仕組みを作るらしい。
コミュニケーション能力が高く、自ら問題を見つけ解決策を探し出しチームを組んで実行する。
そんな人がこれからの社会には求められるようになる。
そうして、そうした人材を育成することによって国力が自然と上がり
新たな活力が生み出されえるようになる。
そのためには、初等中等教育も変わっていかなければならない。
では、どうしたらいいのか?ということの解法がここには詳細に書かれている。
蓮行さんは関西を中心とするプロの演劇集団を率いている劇作家であり演出家である。
劇団「衛星」代表。そして青年団主宰の平田オリザさん。
二人の共通点は大阪大学で教えてらっしゃるということ。
そして、小学生や中学生、高校生に向けて演劇という手法を使った
教育実践を長年にわたって何度も行われているということ。
彼らの行ってきた過去の知見が本書では開示されており、
これからの教育を考えるうえで大いに参考になる。
知識を詰め込むことは今後必要がなくなる。
いかに検索するかの知恵を働かせることが大切。
そして、誰にどのようにお願いするのか?ということも大切になる。
プロジェクト毎にメンバーを集め、その座組でプロジェクトを進行していくというような技術である。
これは社会人になると必然的に行うことになるのだが、
そうしたことを子供の時から演劇教育などを通じて育てていくことが
これからの社会にとってとっても大切なことなのではと
本書を読んで確信するに至った。
誰にお願いするのか?というのを本書では「発注力」という言葉が使われている。
これって私たちの業界では「プロデュース力」と言い換えてもいいのかな?と思った。
こうした「チカラ」が教育現場の先生にも、今後求められてくる資質である。
教えるのがうまいだけの先生から、子どもの潜在能力を見出し、
子どもたちが自ら学び始めるという環境を作っていき
ファシリテートしていくことがこれからの新しい教師像となるのでは?
演劇を自分たちで作ってみるというような教育は創造的で
とてもクリエイティブな行為であり、それを全国で教える仕組みの開発が重要になる。
そのための実践書として本書はとてもいいのではないだろうか?
すべての学校図書室に本書が置かれ、多くの先生が読まれることを願います。
また、途中で鼎談の部分があるのだが、そこに登場している青山学院大学の
苅宿俊文先生のお話もとても面白かった。2016年2月発行。