ワーク・イン・プログレス公演を経て、待望の本公演。
前回のものを見たとき相当面白いなあと思っていた作品が
さらなる稽古と精査を経て、超完成度高い作品に仕上がった。
敬愛する作家、宮沢章夫の初めてのこまばアゴラ劇場での本公演。
何らかの縁があってのことなんだろう。
遊園地再生事業団の公演を60人もはいるといっぱいになるアゴラの空間で見ることのできる贅沢、
そしてレベルの高い青年団の俳優さんが登場しているという贅沢、
さらに高いレベルの劇作家・演出家と同様の俳優たちが長い期間をかけて
創作していったという贅沢、ワーク・イン・プログレス公演を経るという
本番までに試演会的な公演をして本作に臨むという贅沢。
それらの要素がすべて詰め込まれているだけに、その完成度の高さったらない!
セリフの間のひとつひとつから、場面転換の間、さらには音に合わせて
セリフを発する心地よさ、俳優の身体の動きや反応のスピードなどが
宮沢章夫の手によって完璧にコントロールされ、
そして俳優によって完璧な演技がなされている。見ていて気持ちいい。
本公演2日目のソワレを見たのだが(3公演目)これだけの高いレベルで行われているのだから
いつ行っても間違いがないだろう。でも、チケットはまだ、あるのだろうか?
この日も満席だった。
宮沢さんらしい笑いが随所に挿入される。空気が妙にねじれた場面を描く。
その独特な視点が宮沢章夫らしさでもある。
エッセイ集「牛への道」だったかに自販機でコーラか何かを飲もうとボタンを押したら
ホットコーヒーが出て来た、それを手に取り呆然と温かい缶コーヒーを眺める。
その時の奇妙な間とばかばかしくも笑ってしまう状況。とでも言おうか?
当時このエッセイを読んで大笑いしたのだが、
そうした要素がふんだんに挿入されている。
本舞台のテーマは「女性の妊娠と出産」である。
それにまつわるエピソードが断章のように挿入され続ける。
朗読者の場面では多くの書籍や雑誌からの引用がなされる。
石川達三から清水邦夫、そして唐十郎やチェーホフの「かもめ」
平田オリザの「東京ノート」も!
さらには女性誌の女優のインタビュー記事や産婦人科医院のパンフレットや
子育て情報誌までまで。
その朗読者の引用の挿入と本編を貫く「女性の妊娠と出産」についての話が
交互に繰り広げられる。1時間45分の上演時間だがその密度は濃い。
舞台は公演チラシにもあるように八角形でできた鳥かごみたいなセット、
観客席ぎりぎりまで張り出してありそれがまた新たな演出的な効果を出す。
白木のテーブルと白木の椅子が八脚中に置かれている。
ナチュラルで美しい舞台。ラジカルガジベリビンバシステムの時から変わらぬ
スタイリッシュさが舞台を貫いている。これは35年近く一貫している。
衣装も同様。色の構成が美しくいつまでも見ていたくなる。
そしてやっぱり音楽の選曲もいい。
80年代から宮沢章夫の舞台を見続けて来たものには格別のものがある。
俳優陣も個性豊かでいい。特に鄭亜美の目がいい!
悲しそうな目をしながら独特のキャラを作っている。
ベテランの松田弘子もいい味を出しており随所に笑える箇所が満載。
そして男優たちが清水邦夫や唐十郎のいわゆるアングラ演劇を引用するシーンがあるのだが
アングラ演劇に対するデフォルメが行われておりその異化効果が笑いを誘いだす。
シニカルで批評的な目と子供を産んで育てる女性に対する敬意と愛情が
まぜこぜになった独特の演劇体験ができる。
折り込みに書かれていた、宮沢さんの文章「Xさんへのメール」に感動した。
必見の傑作。25日まで。