トラッシュマスターズの公演に久しぶりに女優の林田麻里が登場した。
林田は2013年トラッシュマスターズの舞台に出て紀伊国屋演劇賞を受賞した。
トラッシュマスターズでは、川崎初夏と二枚看板だった林田。
この二人が登場すると舞台が引き締まって見えてくる、のは気のせいか?
上演時間2時間40分休憩なし。濃密な会話劇が2時間40分持続する。
観客は彼らの言葉に耳を傾け、彼らの言葉の意味を考え続ける。
頭の体操が2時間40分続くと思ってもらってもいい!
終演後、その時の集中が心地よい疲れに変わる。
ものすごくシリアスな「朝まで生テレビ」を見たような気にもなる。
そんな舞台だった。
場所は大きなお屋敷のリビング。ここには元々、大手新劇の大女優が暮らしていた。
いまは、ここでその娘(長女)(川崎初夏:翻訳者をしている)と
その夫(高橋洋介:元教師で今は、市議会議員をしている現在民進党所属)
二人には子供がおり、娘(多田香織:KAKUTA)は祖母と同じ
新劇の団体で女優をやっている。
息子(森田匠)は働いていた職場を辞め無職。
時々ヘイトスピーチに関するデモなどに参加している。
そして、この家にはその弟の長男(星野卓誠:新進気鋭の劇作家:演出家)も
同居している。
この日は星野の舞台の公演の初日だった。
初日の公演を観劇した関係者がこの家に集まって来ていろんな会話をする。
林田麻里は新聞社勤務の劇評家という設定。
広告代理店勤務で孫娘の多田香織の恋人である男(森下康之)と
リビングでお酒をいただきながらこの舞台のことから始まって
自分たちが考えていることを話し始める。
パリのベル・エポックの時代などにカフェにみんなが集まって
様々な議論がなされたというが
このリビングがまさにそんな場所になっていく。
舞台で演じられたのはこの家の家族のことについて書かれた創作戯曲だった。
創作なのだが具体的な家族構成やエピソードがそのまま使われているので物議を醸しだす。
議員の離党に関しての話もここには書かれている。
自分の立場、相対的に外部の人から見てどうみられるのか?
などというところから会話は始まって。
さらに深い民主主義の根本そして日本国憲法の理念までが語られる。
大女優だった祖母の遺志がここに貫かれているのか?
会話を通じて中津留章仁は私たちに考えることを要求する。
ただ楽しむだけのものではない、芸術的表現の先に本当に大切なものがある。
それを守るために必死で戦わなければいけない。
その自由を守るために懸命に耐えしのび頑張る。
そうして芸術家は作品などを通じて自由を獲得しているのだ!
というようなメッセージにも聞こえて来た。
ただし、中津留は多くの現在の事例を提示するが
直接的なメッセージは語らない。
メッセージはそれぞれの観客が自ら考え受け止めるべきであるという前提がそこにある。
最近よく聞く言葉「ポピュリズム」の対極にある「民度」と「知性」を
もう一度再認識して何とか取り戻そう。
そのためには自分とは客観的に見てどんな人間なのか?を自己批判も含めて
批評的に見るという勇気が必要なのではないだろうか?
様々な問題がこの舞台を通じて見えてくる。
印象に残ったセリフを引用する。
「AIが拡がってもクリエイティブな仕事は残るだろうが、
一番AIに置き変わらない仕事が“学芸員”の仕事であるという。
新たな美の定義を発見する仕事。そこには大きな価値があるのだ!」
そんなセリフだった。
2月12日まで。