「アイズ・ワイド・シャット」という映画をご存じだろうか?
名匠、スタンリー・キューブリック監督の遺作となった作品である。
トム・クルーズとニコール・キッドマンが出演し全裸のシーンも多く
「R‐18」指定となった。1999年の作品である。
当時、映画館でこの映画を見て、カメラの移動撮影の素晴らしさに
度肝を抜かれた記憶がある。
完璧主義の監督にかかるとこうなるのか!と思い知らされた。
幻想と現実と妄想が一体になったその世界はエロスが漂い退廃美を描いた、
そんな映画だった。
ちなみにギネスブックに本映画は「撮影期間最長の映画」という
部門で認定されている。
完璧主義のキューブリック監督らしいエピソードである。
その映画の原作がシュニッツラーの「緑のオウム亭」
(Der grune Kakadu -Groteske ineinem Akt)だそうである。
オーストリアの作家がパリの地下の酒場を舞台に描いたもの。
1789年7月14日、パリのバスティーユ牢獄の襲撃の夜のお話。
この酒場では夜な夜な、いろんな階級の人たちがやって来て、みんなの前で話をする。
「すべらない話」のように。
その話が、作り話なのか本当の話なのかわからない!
スキャンダラスな話やエロチックな話、そして原題にもあるように
グロテスクな話などを聴きに上流階級の貴族たちが集まってくる。
貴族たちもゴシップが好きなのだ!それは今のネット社会になっても同じですね。
上演から数十分して女優たちがこの酒場に入ってくるあたりから
どんどんと話が盛り上がる。
酒場の外ではフランス革命が起きているのに、ここでは貴族たちが
俳優たちの演じる(実は真実?)即興ゴシップ芝居に興じている。
その貴族の高尚さとゲスな感覚の落差と
パリのあの時代の階級の格差が対比的に描かれる。
貴族階級は衣食住すべてに満ち足りているのに、いつも何かが足らないと感じ、
不満を持ち続けている。その不満や渇望感を追い払うかのように、
貴族たちは、この酒場で繰り広げられるグロテスクでスキャンダラスな
エピソードを追体験しにやってくる。
演出の小山ゆうなさんが、これはウィーン世紀末の原作なんですよ!とおっしゃっていたのを聴き、
おおいに納得した。まさに退廃とデカダンスの蔓延する世紀末的な世界!
クリムトやエゴン・シーレなどの退廃耽美的な美術が拡がったそんな時代。
これを見ていて、ナチスドイツの登場する映画で
終戦直前のナチスの将校たちが刹那の快楽を求めて狂乱するシーンを思い出した。
フランス革命時のパリの貴族たちもそんな感じだったのだろうか?
そして、その感覚は今につながっている。フランスの極右政党などが
大衆の支持を得るそんな時代である。
狭い舞台に多くの俳優が登場する、客席と舞台が近いのでその臨場感はハンパない。
エロスと欲望が沸き立つこの酒場の空気は実際に舞台を見ると決して忘れないだろう。
辻しのぶが魅力的。上演時間85分。3月5日まで!
原作:アルトゥル・シュニッツラー、翻訳:三輪玲子、演出・上演台本:小山ゆうな