RoMT(ロムト)初観劇。演出は田野邦彦。演目はみなさまおなじみのシェイクスピア劇の喜劇である。
100人も入ればいっぱいになるサンモールスタジオに17人!の俳優が登場する。
劇場に入るとL字型になっており舞台を正面から見る席と下手から見る席に分かれる。
特徴的なのは舞台やや下手側に一本の木が生えていること。
ベケットの「ゴドーを待ちながら」や別役実の不条理劇にも似た。
実は、この「夏の夜の夢」もある種の不条理ファンタジー劇とも言える。
舞台上手には、黒い防水が施された土嚢のようなものがたくさん積まれている。
アフタートークで演出の田野さんがこの木は東日本大震災のあの奇跡の一本松であり、
土嚢は福島のF1周辺から大量に出てくる、除染された土の入っている
あの土嚢をイメージしたと伺った。そういえば昨日は3・11。
あの震災からちょうど6年目である。
先月、被災地を取材したのだが、いまだ復興とは程遠い状況。
土地が造成され、盛り土が着々と進んでいるのだが
人がこの場所に戻って来て普通の暮らしがもう一度送れるのだろうか?そんな感じだった。
田野さんがこうしたモチーフを持ってこられたのは実はこのシェイクスピア劇が
アテネを舞台にした話だからだそうである。アテネは実は海に近い。
森の中を舞台にしたと思える「夏の夜の夢」は実はそんな場所だったことを改めて思い出させてくれた。
本作の最大の特徴はいつも何を言っているのかわからない翻訳調の美文調のシェイクスピアのセリフが
とてもわかりやすく私の身体の中に入ってきたこと。
俳優の喋っている言葉がこれほどわかりやすくすーっと身体の中に入って来た
シェイクスピア劇を見たのは実は初めてかも知れない。
「子どものためのシェイクスピア劇」を長年続けておられる山崎清介さんのシリーズもわかりやすいのだが、
あれは物語の骨格をそぎ落としてストーリーを再構築している魅力である。
書籍で言うなら「岩波少年文庫」のような?
しかし、本公演のセリフは、意味はそのままで現代口語としてわかりやすく書き直しているのだろうか?
それとも本作で使われた河合祥一郎先生の翻訳がすごいのか?
演出の田野さんは、本作では音を意識したと言うことであるが、
耳から聞こえるセリフや音に気を使ったものだからできたものなのかもしれない。
そこからセリフにリズムが生まれ、そのリズムが観客の身体に沁み込みやすくなったのかも。
そして、もう一つの特徴としてはキャスティングの多彩さである。
青年団系の俳優だけでなく「円」「ガジラ」「トキエンターテイメント」
そして「東宝芸能」まで!このキャストの多様性がこの舞台に奥行きを与えている。
劇場自体は狭くは奥行きがないのだが、こうして俳優たちの奥行きと、
さらには舞台の観客席入口から客席に抜ける通路などを活かした演出が
狭さを感じさせない舞台となった。
女優の石渡愛がライサンダーを演じ、彼に恋するハーミアを井上みなみが演じる。
劇場でいただいた小冊子に、そのことが書いてあった。引用する。
-シェイクスピア作品を「Gender-blind」化することの圧倒的な面白さは、
描ける物語の幅が圧倒的に増えること。-
と。こうした上演形態もイギリスなどで一つのトレンドになっているらしい。
石橋と井上が愛し合うシーンを見ていると、新たな感覚がそこに浮かび上がってくる。
そしてベテラン俳優の永井秀樹と太田宏が舞台をぎゅっと凝縮させていた。
多彩な年齢層をキャスティングした効果である。
上演時間約2時間30分。3月20日まで。
アフタートーク(オノマ リコさん・田野邦彦さん)