毎年G.W.になると「なべげん」こと渡辺源四郎商店の面々が青森からやってきて東京で公演をする。
今年でもう9回目になるらしい。主宰の畑澤聖悟さんは青森の高校の教員をされており
同時に演劇部顧問としてかなり長い期間、高校演劇を作り続けている。
中でも「もしイタ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の「イタコ」を呼んだら」(2012年)は
高校演劇の全国大会で最優秀賞を獲得した。
その後、この演目は、東日本大震災後の多くの被災地で上演された。
数年前のフェスティバル・トーキョー(F/T)にも呼ばれて上演されたので見たことがある方も
いるのではないだろうか?
畑澤さんは同時に自らの主宰する劇団「渡辺源四郎商店」の主宰者でもある。
そして、今回、畑澤さんの教え子たちでもある青森の高校演劇出身者たちが
出演する高校演劇を扱った舞台が完成した。
タイトルがすごい!「鰤がドーン!」
岩手の釜石に魚籃観音という50メートル弱の大きな観音様があり手には魚(鰤?)を持っているらしい。
その場所を舞台にした高校演劇を扱った作品。
チラシ裏面にはこのタイトルは1947年のブロードウェイミュージカル「ブリガドーン(Brigadoon)」の
エピソードから取ったと畑澤さんがお書きになっている。100年に一度生まれる架空の村の話らしい。
それと、数百年に一度?やってくる東北太平洋岸の大きな津波のエピソードが組み合わさって
物語が生まれたようである。
高校演劇と言えば「幕が上がり下がるまでが60分以内」と決められている。
そのルールの中でしかも大きな舞台セットを使用せずなどの制約の中で行う。
開演前にはブザーが鳴る。
近年、高校演劇が注目されるようになったのは、平田オリザの小説「幕が上がる」や
それを映画化した本広克行監督作品の映画「幕が上がる」などのヒットなどの影響もあるだろう。
そして一時期の福島はいわき総合高校の演劇部の公演が演劇界を沸かせた!
マームとジプシーの藤田さんや五反田団の前田さんがいわき総合高校に創作のお手伝いに行き、
飴屋法水さんが彼らと作った「ブルーシート」は話題になり、
数年後、フェスティバル・トーキョーで再演が行われた。
現在、いわき総合高校の演劇部顧問だった石井先生は
大阪の茨木市にある追手門学院高校の演劇部の顧問をされているらしい。
石井先生が高校演劇に関する本を出されている「高校生が生きやすくなるための演劇教育」というもの。
本作を見て、こうして演劇を行うことによって
作る方にも見る方にも何らかの救済が行われ生まれるだろうことを実感した。
演劇教育は心の教育でもある。
「最近メンタルが弱い若者が…。」という言葉をよく聞くようになった。
情報社会が高度になってくると誰もが直面することなのかもしれない!
その大切なココロを整えるために演劇という芸術行為があるのでは?
そして畑澤聖悟先生は実際の現場でそれを実行している。
そこから得た長年の体験が本作の根っこにはある。
死者と向き合う主人公のひろみ(三上晴佳)の情景を思い出すと今も泣けてくる。
「マインドフルネス」という言葉がシリコンバレーあたりから生まれて
流行語のようになっている。「マインドフルネス」という行為自体が
ブームのようになっていて、ちょっとどうかな…?と
個人的に感じていたのだが、
「強く生きようとしなくていいんだよ!」というところから始まる何かが
演劇あるいは演劇教育の中にあるのではないだろうか?
それが「生きやすくなる」という言葉に通じるのでは?
上演時間約90分。7日まで。