大正天皇や連合赤軍などを扱った社会派の演劇で定評がある劇団チョコレートケーキ。
戯曲は古川健が担当し演出は日澤雄介が行う。
この二人のコンビから生み出されるここ数年の作品群は、はずれがない!
特に年配の男性のファンが多く、この日も私より年上の男性の観客がたくさんいらしていた。
で、同時になぜか若い女性客も多いのが、この劇団の面白いところ。
その古川・日澤コンビが今回取り上げたのが1960年代の日本。
この時代、日本は大きく価値が転換し高度経済成長とともに
世界第2の経済大国への道を突き進んでいった。
ある「蚊帳(かや)工場」の居間が本作の舞台である。
下手には工場へ続く扉があり、その横には土間がある昔ながらの1階に土間がある。
上がり框になっている広い場所が6畳くらいの
和室になっていてそこでみんなが食事をする。
上手奥に廊下があり玄関や台所に通じている。典型的な昭和の零細工場。
そこでは兄夫婦とその弟、ベテランの職人さんの4人で細々と経営していた。
昭和35年~45年、西暦で言うと1960年~1970年までの約10年間が描かれる。
1960年この「蚊帳(かや)工場」に金の卵がやってくる。
福島は会津地方の貧農の三男、下にはさらに5人の弟と妹がいるらしい。
兄夫婦はその若者を自分の子どものように扱う。
勉強が好きな若者のために夜間の高校に通わせてやり、大学に行くことを応援する。
若者は働いて実家に仕送りをしながら、大学に行くための入学金を貯金する。
見返りのない愛情をその若者に注ぐ兄夫婦。妻は足が悪く、空襲でケガをしたらしい。
まるで「ALWAYS三丁目の夕日」の世界がそこには拡がる。
兄夫婦があの映画の堤真一と薬師丸ひろ子にダブる。
60年代になると蚊帳の需要が右肩下がりとなる。
新しく建てられるアパートは次々と網戸が取り付けられていく。
衰退していく事業を何とか生きながらえさせようとする兄夫婦。
取引先の寝具店の営業担当者に仕事の依頼を懇願する。
が、時代の変化は止まらない。
そうして蚊帳工場は受注が減り、生き残るために
工場の従業員を減らさざるを得ない状況が続く。
あれから、50数年が経った2017年。会津の金の卵だった若者も70歳代となった。
彼が当時のことを書いた文章が読まれるところからこの舞台は始まる。
1960年代の回想録として語られるのだが
この状況は過去のノスタルジーとして語られるだけのものだろうか?
今、過去に隆盛を誇った企業や業界がたいへんな状態にあり、
資本主義経済の未来自体が大きく変わろうとしている。
あれから、50数年が過ぎても同じような状態があり
私たちはそれに立ち向かっていかなければならない。
そこで、失ってはいけないものは何だろうか?
ということを強く考えさせてくれる。
金の卵だった若者は高校で「資本論」を読み、社会問題研究会に通い始める。
そして、大学では学生運動を行い、警察に逮捕される。悲しむ兄夫婦。
その後の50年がどうなっていったのか?ということを観客は想像する。
そして、どうすればよかったのだろうか?
ということをいつまでも考えさせられる結末だった。
単なる、お涙ちょうだいの人情話で終わらないところに
「劇団チョコレートケーキ」の真骨頂がある。
上演時間2時間15分。21日まで。