藤井ごう:演出、ジャン=クロード・ランベル(<L’ATELIER>byJean-Claude GRUMBERG):作、大間知靖子:訳
青年劇場の舞台で、藤井ごうさんが演出された「普天間」(作:坂手洋二)を
見たのは2013年のことだった。その時の舞台がとても印象的だった。
その公演と同じ、紀伊国屋ホールで藤井さんが青年劇場の演出をされると
聴いて出かけて行った。
藤井さんは映像テクノアカデミアの声優科で講師をしていただいている。
昨年、藤井先生は演劇界の演出に与えられる「千田是也賞」を受賞された。
◆藤井ごうさん 千田是也賞 燐光群「カムアウト2016←→1989」 青年劇場「郡上の立百姓」 椿組「海ゆかば水漬く屍」の演出
と記事に書かれていた。
燐光群の舞台はたまたま見ていたのだが、とても刺激的な舞台だった。
今回はフランスの現代劇作家の舞台!
戦後すぐのパリの洋服を仕立てるアトリエが舞台。
そのアトリエはパリの屋根裏部屋にあり
日々、女性のお針子さんたちがやってくる。
アイロンをかけるのは男性の仕事。
このころはミシンも男性の仕事だ!とこの戯曲の中でのセリフがあって驚く!
経営している夫婦はユダヤ人夫婦。
戦時中にドイツ軍に占領されていたときは大変なことだったろう!
そしてこの夫婦の多くの親戚などが収容所送りになり亡くなっている。
ユダヤ人に対するこうした仕打ちが
今も経営者のユダヤ人の主人のトラウマになっている。
決して裕福ではない労働者たちを描き、彼らに寄り添う!
演劇の仕事のひとつでもある。
こうした理念に基づいて「青年劇場」も設立されたのだろう!
庶民や労働者に寄り添う表現としての演劇は確かにある。
そうしたコミュニティとしての機能も青年劇場にはあり会員が3000人もいるらしい!
本公演でも会員さんと思われる先輩たちがたくさんいらしていた。
反体制の名の下にリアリズムやヒューマニズムを自由に描こう
というような趣旨に賛同されている方々なんだろう!
少し残念なのは若い観客層をあまり見かけなかったこと。
このアトリエで働くお針子さんの中でシモーヌ(崎山直子)という女性がいる。
旦那さんはルーマニア?(記憶があいまい)系ユダヤ人だったのだが
戦時中に収容所に送られ、そのまま戻ってこなかった。
シモーヌはシングルマザーとなって子供たちを、
お針子の仕事をしながら育てている。
夫がフランス人でなかったことで、なかなか夫の死亡届が発行されず
遺族年金がもらえない!懸命に役所に通い続けるシモーヌ。
いわゆる難民である。
同時にユダヤ人夫婦の仕立て屋さんにも資本主義の効率や品質管理という
タスクが課せられるようになっていく。
新たな時代の流れに合わせて変化しなければならないのだが、
精神論だけで難局を乗り切ろうとするユダヤ人経営者!
労働者はそれを、こなさなくてはいけなくなる。
これって、今の難民問題やブラック企業、働き方改革などの
様々な要素が詰め込まれているんじゃないかな?
第二次世界大戦後すぐの米軍が駐留していたパリで起きていたことは
実は現在にも通じている。
演劇とはやはり現在の写し鏡であるのかも知れない!
それは、伝統芸能でも、新劇でも、小劇場演劇でも
同じなのかも知れないな!と思った。
上演時間2時間55分(休憩15分)24日まで。