作・演出:屋代秀樹。
以前、中野で「パラドックス定数」の舞台を見に行った時に、
キャスティングの吉川さんという方にお会いして、
最近、気になる劇団はありますか?と伺って教えてくれたのが
この「日本のラジオ」。
日本の小劇場演劇を本当に良く見ている吉川さんのレコメンドだったので
メモしたことを記憶している。
その「日本のラジオ」が三鷹市芸術文化センターに来ると聴いたので見に行った。
平田オリザ率いる青年団が「静かな演劇」と呼ばれるようになって
20年以上になるんじゃないか?「静かな演劇」という形式が普通になるに従って、
こうしたことを言う方もいなくなって来た。
今回この舞台を見て久しぶりにこの「静かな演劇」という言葉を思い出した。
この舞台は言うなれば「ものすごく静かな演劇」だった。
舞台は海外の劇場である。
この劇場にテロリスト集団が侵入し観客やスタッフ、劇場関係者を人質にして立てこもった。
その3日間の記録。日本人の劇作家・演出家の舞台の上演時期に
テロリスト集団が侵入してきたようである。
彼らはこの現場の様子と彼らの声明を訴えるべく
毎日動画共有サイトに撮影した動画をアップロードしている。
出演者は全員出っ放し。
ただし、場によって登場人物は変わる。
登場しない人物たちはオレンジ色の頭巾を頭から被っており顔が見えない。
IS国の人質の映像を見た方なら、それと同じような感じ
と言うとおわかりになるかもしれない。
先日も、ラスベガスのライブハウスで60代の男性が銃を乱射し
60人近い観客が亡くなった。
2001年9月11日を境に、戦争の形が変わってしまった。
非対称性というのだろうか?
大きな国家や組織同士で戦うということではない事件が頻繁に起きるようになった。
屋代さんもそれを意識してこの戯曲をお書きになったのだろうか?
人質とテロリスト、そして人質同士の会話が淡々と行われる。
ものすごいことが起きているのにもかかわらず、ものすごく静かに舞台は進行する。
これが「ものすごく静かな演劇」と呼んだ理由である。
日本人演出家と通訳と動画共有サイトに発信するための映像を作っている
映像作家(テロリスト集団の一人)との会話が面白い。
通訳が介在することのコミュニケーションということについて考えさせられた。
そして、このような事実が実際にあったということをどこかで聞いたことがあるのだが、
ご存じの方はいないだろうか?(実際に言われたことを通訳しなかった!ということ)
舞台は、淡々と始まり淡々と終わる。
しかし実際はものすごいことが起きている。
メディアで見る報道を現場サイドから描いたという意味でも意欲的な試みである。
劇場に入っての観客席の配置も同様に意欲的!
来年の「日本のラジオ」も期待したい!
10月9日まで。上演時間90分。