新国立劇場企画。フランスの劇作家「ジャン・ジロウド」の戯曲。演出は栗山民也。
でかい中劇場にでかい円形のセットがドーン!
奥には大きな岩の壁があり、この岩の壁が動くことによって
外界とつながっていく。という独特なセットが作られている。
トロイの周辺は草原なのか見渡す限り何もない大地のような印象。
美術は二村周作。
新国立劇場の美術の多くを手掛けられているだけあって、
こうした大きな舞台の美術セットの作りがものすごい迫力!
戦争をやりつづけたトロイに平和がやっとやってくるのだが、
戦争帰りのトロイ王の長男エクトール(鈴木亮平)は、
戦争の悲惨な現実を知り帰還する。
鈴木亮平は何とかしてそうした戦争を忌避しようとするのだが、
「世間の風なのか?」それとも「民衆の思いなのか?」
戦争に向かっていく流れが止められない!
その延々と続く葛藤が、勇壮なかつ重厚なセリフで紡がれる。
来年のNHKの大河ドラマ「西郷どん」の主演をする
鈴木亮平の役柄を今から想起させるような芝居だった。
リーダーとしての苦悩が見えてくる。
俺は、本当はこんなことになって欲しくないと思っているのに、
なぜかなって欲しくない方向に世間が向かってしまっていくこと。
何を言っているのですか!?これが現実ですよ!と
当時のジャン・ジロウドは感じていたのだろうか?
この戯曲が書かれたのが1935年。
まさにナチスドイツがフランスに攻め入ろうとしているような
流れを感じてジロウドはこの戯曲を書いたのか?
ちなみに第二次世界大戦は1939年に始まる。
今、東アジアで起きている危機と重なって見えてくる。
戦争を起こしたくて起こす人はいない!
ならば、「戦争は起こらない!」と信じて発言し続け行動するということが
実はとても大切なことなのではないのか?とこの戯曲が教えてくれる。
危機管理をするために最悪のことを考えつつも平和的な手段はないのか?
とゆるやかに模索する。
そして混沌としながらもゆっくりと前に進んで共存していくというのが
私たちアジア人が持って生まれた習性なのではないだろうか?
孤立したものを追い込むことによって、孤立した人は牙をむく。
以前、お猿さんの撮影をした時に、
現場でお猿さんが牙をむいたのと同じような状況を私たちは作っていないだろうか?
現在の「猿の惑星」のVFXの技術が登場するまで待つというようなことも
一つの大人の解決策ではないだろうか?
こんなことを考えさせられた。
妖艶な一路真輝が若者を狂わせていく。
並行して純粋な女性(鈴木杏)が鈴木亮平の温かい伴侶を演じる。
平穏で温かいものと狂わせるだけの魅力がある危険なもの。
人はそのどちちらにも惹かれてしまうのは理解できる。
トロイの神話に題材をとって作られた寓話的なこの戯曲は
実は現在に通じるものであるという制作者たちの強い思いが終結した作品となった。
特に後半の迫力に満ちた演出がいい!
鈴木亮平ファンじゃなくても鈴木亮平のことが好きになる!
休憩入れて2時間45分!22日まで!