文学座創立80周年記念!作:別役実、演出:鵜山仁。
別役さんの、この戯曲作品の舞台を初めて見た。
KERAさんが別役さんを敬愛していることが
この舞台を見るとよくわかる。
そもそも、病院の庭の木の枝に入院している患者さんが
自分の鼻を吊るしているという設定自体がいい!
不条理劇とはこういうものですよ!と
別役さんが平然とした顔でおっしゃっている。
そんな感じが充満している。
ああ、まるでKERAさんの劇団「ナイロン100℃」だなあ!と
文学座公演を見ながらそんな本末転倒なことを思っている自分を発見する。(笑)
特に看護婦長と二人の看護婦との掛け合いのシーンがいい!
キリスト教系の病院なんだろう!
看護婦は修道服を着ている。
そこで、入院患者に「こんな病院はいやだ!病院を変わりたい!」と
思わせるためには、どうすればいいのか?
というお話をまじめくさってする婦長!
それを、身を乗り出して「じーっ」ときく看護婦の二人。
特に背の高い看護婦役の千田美智子がいい!
顔や様子でその感じが伝わる。
立ち姿とそのカタチ、そして婦長を見るときの顔の形や
目の大きさがこの不条理劇をさらに面白いものにしている。
ナイロン100℃の植木夏十という女優さんを思い出した。
以前、オーディションで片桐はいり(当時:ブリキの自発団)が来た時も、
その様子の個性的なのに驚いた。
とにかく、千田美智子はセリフが無くても面白い。
聖なる病院が患者を別の病院と取り換えて医療報酬を増やそうという
たくらみが行われている。
卑俗な行為が聖なる教会系の病院で行われている不条理。
しかし、本当に不条理なのか?
もしかしたらある種のリアリティがそこにはあるのかも知れないとも感じる。
病院には母親と娘(実は本当の娘じゃないらしい)が入院している。
娘は母親の病室に泊まり込んでいるのだが実は本当の娘ではないらしい!(??)
と言うことは偽装の家族なのか?
こうした不条理がさらに積み重ねられる。
元俳優だった入院患者の江守徹。
車椅子に乗ったまま介護の方に押されて散歩にやってくる。
この元俳優の車いすの患者も不条理の塊である。
たばこを吸うのか吸わないのか?俳優なのかそうでないのか?
ぼけているのか?そうでないのかがわからなくなる。
そして戯曲は敢えてそうした歪んだ状況を描いている。
今回の舞台の最大の特徴は、病気をされて老いを迎えられた江守さんが
その老いた身体そのままで舞台に出ていることだろう。
セリフも飛びがちになるのでプロンプターさんがいらっしゃる。
セリフが出てこないときに舞台脇から次のセリフの冒頭を
伝えるという役割の方。
この方の声が時々沈黙の間の中で聞こえてくる。
老いた姿とその様子をさらして舞台に立ち続けている
江守徹という存在そのものを見て鳥肌が立った。
人間がこうして生きている。
誰かの助けを受けながらもこうして舞台に立っている。
創立80周年の文学座だからこその重みが伝わってくる。
超高齢化社会に突き進んでいく私たちが
これから直面していくだろう課題とその一つの回答が
ここにあるのではないか?
別役さんが戯曲で意図した以上の別のカタチのリアリティを
江守さんと演出の鵜山さんが創造したのである。
できれば、出来るだけ前の方で見るのをおすすめします。
30日まで。上演時間1時間15分。