今、日本の小劇場界でイキウメの作・演出を行っている前川知大は
もっとも優れた演劇活動をしている一人ではないだろうか?
毎回見るたびに驚かされあまりの完成度の高さにまた行きたくなる。
チケットはいつも早々に売り切れる。(※追加公演が出たらしい)
最初に見た前川さんの作品がこの「散歩する侵略者」だったのでないだろうか?
調べてみたら2006年に別の劇団ユニット「G-UP」が主宰し
赤堀雅秋(THE SAMPOO HAT)の演出で行われた公演だった。
詳しくは、http://haruharuy.exblog.jp/2494611/
その時の戯曲が面白かったので、それ以来
前川さんの舞台は出来るだけ行くようにしている。
この戯曲も何度か再演されていたのだが、今まで見られないでいた。
今回拝見して、初めて「散歩する侵略者」を見たときの印象と
まったく違うものが見えてきた。鳥肌が立った。
10年を経て前川さんの演出が巧みになったこと。
そしてイキウメに登場する俳優たちが成熟して素晴らしくなったこと。
そこから生み出される、ある種のリアリティが観客を
物語世界にぐいぐいと引き込んでいく!
知的好奇心をくすぐる戯曲というのがある。
前川さんのそれは際立っている。
AIが進化して人の体内に入ってみると
こんな感じになるんじゃないかな?と浜田信也を見ていて想像する。
彼らは宇宙から来た侵略者で、地球の調査にやってきたらしい。
人間の身体を借りて他人と接触し
人間たちから「概念」を奪っていく。
「差別」とか「公平」とか「禁止」などの概念を!
奪われた人はその概念を理解することが出来なくなり
精神が変調していくのである。
さらには「神」や「愛」という概念まで登場する。
激しいアクションなどがなくてもこうした話で
物語をどんどんと引っ張っていく。
「メッセージ」という映画や「2001年宇宙の旅」などにも似た
哲学が本作の中にはある。
意識とは?記憶とは?感情とは?そして人間とは?ということの
深い考察からこの戯曲は生み出されたのだろうか?
も2006年の上演台本と同じ戯曲をそのまま使っておられたのなら
この印象の大きな違い(深み)は何だろうか?
それは俳優と演出なのだろうか?
今回、内田慈(うちだ・ちか)がキャスティングされている。
別居していた浜田信也の妻の役なのだが、浜田がちょっとおかしいということで
介助も含めて同居することになる。
夫婦としてまた暮らし始めるのだが、この二人の関係の変化が
「概念」を奪っていく作業と並行して描かれる。
内田が本当にいい!
このキャスティングも今回の舞台をいいものにした大きな理由の一つかも知れない。
内田は、今年は映画「神と人との間」にも出演しており、
現在行われている東京国際映画祭で上映されるらしい!
安井順平、盛隆二、森下創、大窪人衛そして浜田信也という
イキウメの常連男優たちの芝居は見ているだけで楽しい。
今年、必見の一本です。11月19日まで。その後、大阪・福岡。