ケラリーノ・サンドロヴィッチ作・演出。ナイロン久しぶりの新作。
客演に水野美紀、遠藤雄弥、マギー。
さすがナイロンの公演だけあって有名人お客様が多い。
私が見た回も、あの人も!そしてあの人も!
四半世紀劇団をやり続けているといろんな関係が増えていくのは
人間が年を取ると多くのしがらみが出来てくるのと同様である。
その歴史的人脈を生かしてナイロンは毎回新たな試みに挑戦する。
今回はまるでティム・バートン監督の映画のような
ホラーサスペンス家族劇とでもいうもの。
出演者はみんな「スリーピー・ホロウ」のような顔のような白塗りメイクをしている。
ハロウィンの仮想にも似た「怖面白い」メイク!
いままでのナイロンでも「怖面白い」ストーリーはいくつもあったが、
今回はメイクにまで!!!!
ある架空の国の物語、ナイロンの描く架空の国では
いつも「ゲーンズブール」という通貨単位が使われる。
大きなお屋敷に住む家族とその家族の庭に住み着こうとするホームレスの家族の物語。
この家族が入れ替わり、交流が始まる。
この変な設定には理由があることをKERAさんの書いた折り込みを読んでわかった。
いま、病床で闘病されている劇作家「別役実」の作品から
多くのモチーフが引用されているらしい。
ということは不条理劇の創始者でもある
サミュエル・ベケットの世界観も見え隠れするということでもある。
KERAさん自身が、
別役実の「電柱や夕暮れ、じゃんけん、飛行船、リヤカー、受付、おままごと」
などのアイコンを散りばめたと書かれていた。
不条理劇によくある「なんじゃこれは!」という
ネタがいくつも登場するのだが、ナイロンの俳優さんが演じると
それが上質でくだらない素敵な「不条理喜劇」になるんだな!
ということが良くわかった。
最初の20分くらいでこの奇妙な劇世界に見ている人たちが入りめると、
そこには爆笑と怖さが同居した世界が大きく口を開けて迎え入れてくれる。
三宅弘城や犬山イヌ子、峯村リエ、みのすけ、村岡希美、廣川三憲
そして大倉孝二などの個性的な俳優たちが演じることによって
その面白さが倍加する。
大倉孝二が時々発作を起こすのだが大倉孝二じゃないと
あの感じはだせないのではないか?
そして笑いの裏に、現在の政治や社会の仕組みを皮肉った感覚が顔を出す。
これがナイロンのナイロンらしいところ!
批評性があってそれが今、演じられている。
原発問題を取り扱った「奥様お尻をどうぞ」以上に
複雑な社会を批評的に切り取る。
二元論では決して語り切れない世界、それを二元論(善か悪か、正しいか正しくないか!)で
理解しようとする人たち。
その考え方の危うさをこの「不条理喜劇」は笑いのエッセンスにまぶして表現する。
まるでどこかの国の話ではないだろうか?
水野美紀がナイロン100℃の劇世界にとてもマッチしていた。
極端なことが平気で出来てしまう女優水野美紀をいいなあ!と思った。
舞台をやりたくて事務所を変えただけの「覚悟」が彼女の芝居にはある。
休憩入れて3時間10分。
回り舞台にプロジェクションマッピングするという新たな映像の使い方も見せていただき、
毎回ほんとうにこれだけ実験的な挑戦をやり続けられるものだなあ!
とKERAと同世代の私は感心しきりで、
自分も志を高くもって冒険をし続けようと思わせてくれた舞台でもあった。
12月3日まで!