作:古川健、演出:高橋正徳。水戸は茨城県。
茨城県土浦出身の刑事を近藤芳正が演じる。
昭和38年に当時4歳だった少年「村越吉展ちゃん」(よしのぶちゃん)が
誘拐され身代金を受け取って犯人は逃走する。
電話の声と似ていると小原保が別件逮捕され取り調べを受けるが
犯行当時、故郷の福島にいたというアリバイが崩せなかった。
2年後の昭和40年(1965年)に警視庁捜査一課の平塚八兵衛が
よしのぶちゃん事件の捜査に参加する。
そして、この年の6月23日から小原容疑者に10日間の取り調べを行う。
この10日間の取り調べを軸とした舞台。
近藤芳正が筑波竜一に尋問する、近藤の助手に中島歩。
この3人を中心に容疑者と関連があった飲み屋のママさん(渋谷はるか)、
容疑者の母親(五味多恵子)そして近藤の上司でもある刑事部長(福士恵二)が登場する。
シンプルなセット。真ん中に取り調べ用の机と椅子。
上手奥に小さな電話台と黒電話が置かれている。
白い開襟シャツにダボっとした茶系のスーツを着た近藤さん。
あの当時のファッションを思い出す。
容疑者は2年前に取り調べられたように自らが作り上げた福島でのアリバイを語る。
そして、10日間をやり過ごそうとするのだが。
この事件の内容が当日座席に置かれている折り込みに書かれている。
これを読んでから観劇することをおすすめします。
古川健はこうした社会性の強い戯曲を書くのがうまい。
後半の休憩挟んでの二幕の構成がいい!
見ていて一番知りたくなったのは何故、容疑者は自らの罪を認め自白するに至ったか?である。
戦後すぐの時代はひどい貧困の状態で食べることもできなくなった
若者たちがたくさん都会に出て来た。国家の政策でもあった。
しかし若者たちはそれでもうまくやっていけなくて
圧倒的な孤独の中で犯罪を起こす。
無垢なままで生まれ落ちた人間が世間の波にもまれて犯罪をおかす!
この事実をこの舞台は冷徹に見つめる。
淡々と進みなかなか取り調べが進展しない1幕目。
休憩をはさんで二幕目になってそれが徐々に変化していく。
母親から生まれた時のピュアな状態に人間はだれしも出来ることなら
戻りたいと思うのではないだろうか?
死を直前にした方が語る「聖なる言葉」。
ここには、無垢なる「無」に帰ることが
本当の意味での幸せであるということを意味しているのではないだろうか?
おかしてしまった罪は一生かけて償っていかなければならない。
それでも罪は消えることはない。
そのどうしようもない「業」を抱えて生き続る。
罪を「悔い改めていく」という行為を続けることが彼にできる
たったひとつのことなのかも知れない。
上演時間、15分の休憩入れて2時間40分。
休憩なしにして前半のテンポを上げるかセリフなどを削るかして
2時間15分くらいにまとめるとさらに良くなるのでは?
お母さんの姿が今も脳裏に焼き付いている。
12月10日まで!