<文化庁委託事業「平成30年度次世代の文化を創造する新進芸術家育成事業」
日本の演劇人を育てるプロジェクト新進演劇人育成公演俳優部門>
という長々しいタイトルがつけられた本公演。
1969年に新宿中央公園でゲリラ的に行われた
状況劇場のテント公演で演劇史に残る作品らしい。
当時は、このゲリラ公演を阻止しようとする機動隊の集団が
上演したテントを取り囲んでいたらしい。
70年安保闘争などの学生運動がピークを迎えた、まさにそんな時に
唐十郎率いる状況劇場のメンバーたちはどんな想いでこの公演を行ったのか?
そして、それを見に来た観客はどんな覚悟で集まってきたのか?
当時を知る、その公演に出演していた大久保鷹が本公演にも出演しており、
1969年1月3日の公演と本公演を接続する。
雨の早稲田には超満員の観客。
昔、アングラ演劇を見に行くと座席がほぼベンチシート
あるいはテント小屋だとビニールシートの床など、で、
お客が増えると「せーの」と劇団員たちが声をかけて
観客をとにかく詰め詰めにして本当に満員電車のような熱気の中で公演が行われるのが常だった。
最近はそのような客入れもなくなったが、本公演はそれに匹敵するくらいの勢いで
SPACE早稲田の小さなスペースに目いっぱい観客が詰め込まれた。
当時の熱気を身体感覚で感じられたのではないだろうか?
その公演から50年近くが経ち、時代は大きく変わった。
次世代を担う新進俳優たちがその50年前の作品に挑む。
言葉遣いもなにもかもが変わってしまった。
その変化を、今の若き俳優たちの身体がどう演じるのか?
というのも本作の見どころなんだろう!それを、文化庁が予算的に応援する。
会社の先輩のMさんは、昔からアングラ演劇ファンである。
(演劇以外も、落語、クラシック、オペラなどの造詣が深く、
最近は能楽に興味を持たれて良く行かれているらしい。)
以前、Mさんのデスクに行った時に「寺山修司」のVHSビデオが
置かれていたのを見て衝撃を受けたのを今も覚えている。
MさんとTさんと三人で観劇。
三人が肩を寄せ合って、目の前で行われている奇妙なものをじーっと見ている。
客観的にそれを見ると笑ってしまうかも知れない、と想像する。
唐十郎の独特なセリフ回しはまさにオンリーワン!
しかし、あの言葉が若き俳優の身体と分離してしまい、
もはや、あの言葉自体が時代と大きく変わってきていることを感じる。
逆の見方をすると、それこそが1969年に
接続するための試みであるということとも言えるのだろうか?
いちばん印象に残ったのは、本作で天皇の戦争責任を問うていること。
戦後の空気がまだ世間を大きく支配していたあの時代にそんなことが出来たことに驚く。
貧乏で不潔で猥雑で欲望に満ちていたあの時代。
ただ圧倒的な生きていくためのエネルギーがあの時代には確かにあった。
本作はその時代のことに想いを馳せる舞台なのかも知れない。
残念だったのは野外公演ではない、ということ。
それを踏まえた演出がなされるべきだったのでは?というのは言い過ぎだろうか?
芝居の最後や途中でテントがドーンと開いてそのさらに奥に大きな空間が拡がる。
それが唐十郎のテント芝居のある種の快感でもある。
当時の映像を使った演出などで当時の時代の空気を表現しようとした試みは印象に残った。
しかし、物語のある舞台として観客の身体に残るものをさらなる工夫で残せたのではないか?
それは俳優のチカラによるところも大きい。
だからこその<新進演劇人育成公演俳優部門>なのかも知れない。
会話の間が切れ切れになることだけでも解消できればより良くなる筈!
がんばれえええ!若者たち!
上演時間1時間45分。12月16日まで。公演詳細は、
http://www.gekidankyo.or.jp/performance/2018/2018_05.html