MITAKA “Next Selection”公演が今年で20回を迎えた。
ものすごいことだ!20年も毎年新たなチカラを持った新進劇団(や個人)に絞って
上演し続けている。過去の上演リストを見ると驚く。
一体何人の作家が岸田戯曲賞を初めとする演劇賞を獲っただろう?
そして何人の俳優たちが有名になっていったことだろう!
こまめに新進劇団の公演をチェックしていないとこのプロデュースは出来ない。
三鷹市スポーツと文化財団の職員でもあるプロデューサーの森元隆樹さんの
日頃の努力のたまものである。
というか、森元さんの圧倒的な演劇愛がこの20年を可能にしたのだろう!
大きな変化は「たった一人の熱狂」から始まる。
という言葉が私は好きだ!
熱狂していればいずれ誰かが応援してくれるかも知れない、
時代がそれに追いついてくるかもしれない、
テクノロジーの進化がそれを可能にするかも知れない。
それは演劇のプロデュースも同様なのではないか?
劇場の中に入ると大掛かりな美術セットに圧倒される。
真っ黒なリノリウム(?)光沢のあるそれが一面に敷かれ、
最初は本水が貼られているのか?と思った。
そして舞台上手奥にはドラムセット。
下手奥にはグラウンドピアノが置かれている。
奥には大きなベース用のギターアンプ・スピーカーが設置され
ここでコンサートが行われるのか?という仕立てとなっていた。
スタジオと呼ばれているそれは見た目には明らかに
高級なジャズクラブ会場のよう!ブルーノート?みたいな。
「チュニジアの夜」という曲をこのスタジオに来ている人たちが
一緒に演奏しようということとなる。
出演者たちはみんなどこかに大きな傷やトラウマを抱えており、
今の時代を今の世の中を世界を疎ましく息苦しく生き難いものだと思っている。
必然的にそのような精神状況だから他人に対しても優しくなれない!
負の連鎖を繰り返しながらその負の遺産がどんどんと拡大し
ますます生きにくくなっていく。
その人たちにどう向き合うのか?
ということを作家の深谷晃成は考え、彼なりの解をこの舞台に提示したのだろうか?
ヒリヒリとした読後感が残る。
お金にまつわること。性と生のこと。ブラックな企業で働くこと。
正社員と派遣社員とのこと。そして音楽と才能について。
などのエピソードが同時並行で描かれる。
この劇団は2013年に結成されたらしい。代表の深谷は尚美学園大学総合演劇コースにて
若林一男に演技演出を学んだと書かれてあった。
登場人物は15人。そして多くの俳優たちが本格的な演奏をする。
なのでエンディングに近いシーンでの「チュニジアの夜」の演奏シーンは記憶に残る。
「音楽とは、いくら努力しても圧倒的な才能を前にすると何も出来ないと言う現実がある。」
という冷徹な事実が描かれる。
それは芸術の世界だけでなくクリエイターの世界も同様なのだろう!
もちろん圧倒的な努力を続けることが前提なのかも知れないが、
それ以前の天賦の才能に関してはだれもどうしようも出来ない。
そしてあの圧倒的なものが何年続くのか?も誰もわからないのである。
その中で多くの人が生きづらさを抱えながら暮らしている。
そのリアルな感覚を深谷は独特なスタイルで切り取る。
劇中で舞台転換などの時に字幕で投影される深谷の世間に対する
シニカルな言葉が心に突き刺さっていたい。
自由に仕事が選べ好きなことをして暮らせる時代だからこその
閉塞感がここでは描かれ、出口が見えない状態でさまよう人たち。
それを救うための一つの方法として音楽があり演じる方もそれを鑑賞する方も、
それによって救われるのだろうか?
私はこの公演を最前列で見ていたのだが、私の隣の髪の長い女性が
嗚咽しながら観劇されていたのが印象に残った。
上演時間2時間10分。9月1日まで。