西川美和監督は、32歳。凄い才能が出てきた!
こんなに強く気持ちを捉える映画、なかなかない!
彼女は、早稲田大学在学中から、
テレビマンユニオンの是枝監督に見い出され、
映画「ディスタンス」の手伝いに参加。
それ以降も是枝監督の仕事を手伝いながら、
ドキュメンタリーの制作なども手がけるようになったらしい。
彼女の制作したNHKの裸にしたい男たち「宮迫博之」の
ドキュメンタリーは印象に残っている。
長編映画は「蛇イチゴ」についで、これが第二作になる。
まれに、若い頃から、才能を見い出され、
その才能を簡単に惜しげもなく発揮し驚かせる人がいる。
神から選ばれた人。西川美和はまさしく、そんなタイプの監督。
映画自身は深く、重い。
自分のココロのずるいところ、弱いところ、いじわるなところを敢えて照射される。
そのことを、問いかけられる。
そのこと自体が、法に反しているわけではないが、
人間としての倫理観を問い詰められる。
さらに、追い詰められることによって、自分自身の弱さを突きつけられ
逃げられなくなり、人間自身が変容する。
裏切ったり、嘘をついたりする。
こういったココロの過程が丁寧に描かれる。
見ている方は、たまらない気持ちになる。
しかし、これらのことは誰にでもあることだと西川美和は知っているのだ。
だから、僕たちの気持ちを強く揺さぶる。
兄弟を演じている、香川照之とオダギリジョーがいい。
そして、一つ上の世代の兄弟、
父親役の伊武雅刀と兄であるオジサン役の蟹江敬三が、いい。
田舎暮らしをしている中で揺れ動く気持ちを上手く演じた、
真木よう子がいい。
それらも全て演出の手の内なのだろうが、上手い、本当に上手すぎる。
また、脇役ではあるが、裁判所の書記官役で「ポツドール」の安藤玉恵が出演している。
そういえば、この映画、ポツドールの舞台「激情」を彷彿とさせる。
西川の音の使い方が、またいい。キレがいいのだ。
時に、無音になり、効果音だけになる。また、台詞だけが聞こえてくることもある。
このメリハリの作り方が素晴らしい。
女性監督とは思えない力強さで僕たちに提示される。
まるで、ゴダールの映画を見ているように。
ゴダール映画の音響監督フランソワー・ミュジーが乗り移っているようだ。
この映画は多くを語らない。というか、語り過ぎない。
もちろんキーワードなどは判りやすく語られ、観客はそれに気づき、
いろいろと考えるのだが。解釈は観客に委ねられる。
最も、特徴的に現れるのは、ラストシーンだろう。
香川照之の笑顔の指し示すものは。そして彼は、彼らは?
これ以降は観客が自分で考えて決めることだと、西川美和は提示する。
僕たちは答えの出ない問題を提示されて、
そのことを抱えながら劇場を出ることになる。
その問題の答えは、
それぞれのココロの中にしかないだろうことを知りながら。
西川美和監督
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