「ハルシオン・デイズ2020」KOKAMI@network vol.18(@紀伊国屋ホール)
作・演出:鴻上尚史、出演:柿澤勇人、南沢奈央、須藤連、石井一孝。
受付に体温測定器と手指の消毒が一緒になった機械が設置されており、
チケットの半券に名前と電話番号を書いて箱に入れて入場するというシステム。
いつもは多くの人がいるロビーも少なく、
パンフレットの販売ブースがあるだけ、徹底した感染対策が取られ
しかも客数が半数に絞られている。
座れない座席には通販で購入した時に届けられる段ボール箱が置かれている。
その箱には「2020年あなたは何を通販で購入しましたか?」と書かれている。
私も本当にたくさんのものをコロナ禍で購入した。
一番、高価だったのは在宅勤務用の椅子です!
舞台の美術もその通販の段ボールをモチーフにしたセットが組まれている。
鴻上さんは本作を「2020」と銘打っただけにほぼ新作となっている。
コロナ禍でパンデミックが拡がり、感染者が差別される。
マスクをしていないだけで非難される今、感染者は近寄るな、出ていけと
分断が起き、ある種の同調圧力が起きる。
鴻上さんがいつも言っている「同調圧力のない社会」はいったい、
いつになったらやってくるのか?
その原因は私たちのココロの中にある。
米国の大統領選でもトランプ支持者とバイデン支持者の間で分断が起きている。
分断した社会で自らのいる側が正義と主張し続ける社会に未来があるのか?
それが米国の掲げる自由なのか?
いまこそ、すべてを包括する、英語でコンクルージョンとか言うのか?の
東洋思想的な考え方が世界の人に必要なのかもしれない。
冒頭はハッシュタグ#自殺という検索で集まった自殺志願者の3人が、
そのツイッターの発信者、柿澤さんのところに集まるところから始まる。
一人は中年の妻子ある男性で2000万円の借金がある石井さん、
石井さんは実は同性愛者で男性のことが好きなゲイである。
そしてもう一人は、心理カウンセラーの南沢奈央。
彼女は週1回高校で心理カウンセラーをしている。
この演劇の特徴として、その南沢奈央にしか見えない男子高校生の須藤さんが
登場してセリフを語ること。南沢奈央は彼の言葉が聞こえ、姿かたちが見えるが
他の二人は彼の姿が見えない。という設定。
なぜなのか?は深くは語られない。
ココロを病んだ高校生が南沢奈央のカウンセリングを受けていたのだが、
突然、自殺したのだろうか?
コロナ禍で有名な芸能人の自殺が相次いだ。
有名人のその行為を見ての連鎖自殺が増えていると聞く。本当なのか?
南沢奈央は実は彼らの自殺を止めようと思ってここにやって来た。
その後のこの3名は何故か、コロナ禍の感染者に対しての分断者たちとの闘争へと発展していく。
一見複雑な構造の中で物語は進んでいくのだが、
その過程で彼らは生きることへの道筋を見いだしていく。
では、どのように変化していくのかは見てのお楽しみ。
心理カウンセラーの南沢奈央本人も心にある種の問題を抱えており、
それが高校生の幽霊?を伴っているという現象となっているのだろう。
柿澤の歌唱も何度か登場し美声を聴くことが出来る。
また、相変わらず座席に置いてある「ごあいさつ」が面白い。
題名のハルシオンとは「睡眠導入剤」のことであり、
それが「ハルシオン・デイズ」となると穏やかな日々という意味になるらしい。
上演時間2時間5分くらい。23日まで。12月に大阪公演がある。